第4話

 さて、時のオルゴニア皇帝はたいそうな野心家だった。彼は後世でも悪名高い二つの政策を実行した。

 ひとつは、政治弾圧である。独裁を試みたこの皇帝は、貴族議会の強制解散を断行した。続いてその矛先は、将来の帝国中枢を担うであろう大学の学生たちにも向けられる。特に共和主義を奉ずる党派に対しての弾圧は苛烈であり、学生たちの指導者であった理論政治学の教授は、凄惨な拷問の末に晒し刑に処され、殺された。

 そしてもうひとつは、外地進出のための外征軍の設立である。大陸最大の領地を持つ帝国全土から徴兵された平民から成るこの外征軍は、不格好ながらも大軍といえた。

 大陸西方に浮かぶ『大島』が、外征軍の最初の進出目標だった。この大島に先住するのは、部族社会を営む化外人だ。外征軍は軍事的圧力や調略により、大島北岸にいくつかの拠点を設けるに至った。

 しかし外征軍はそれよりも先に進むことができなかった。なぜなら、大島の大部分が、オルゴニア帝国とは別の侵略者、カルドレイン王国によってすでに征服されていたからである。

 カルドレイン王国は大陸南部の大国であり、『砦の修道会』により冊封された王権の一つである。沿岸諸島部を有するかの国はもとより海洋国家であり、外地への進出において、オルゴニア帝国の一歩先を進んでいた。

 この状況において、オルゴニア帝国外征軍は一計を案じた。すでにカルドレイン王国によって征服されている化外人土候たちの反乱を促すことで、大島におけるカルドレイン王国の支配権に揺さぶりをかけ、その隙をついて大島におけるオルゴニア帝国勢力を伸張させようとする作戦だった。

 この作戦のためには、大島の土候たちと細やかに連絡をとる必要があった。

 なお、大島で使われる化外人の言葉は、大陸における古代言語とよく似ている。

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