第5話 初めての依頼
異世界へと転生し、無事に最初の町、私にとっての始まりの町である『エルシア』へとたどり着いた。その日の内に何とか冒険者登録と色々な説明を聞き、宿も取って、私の異世界での生活の1日目は終了した。
異世界転生から2日目の朝。
「ん、ん~~」
私は窓から差し込む朝日で目が覚めた。
「ふ、あ~~~」
大きな欠伸を一つしてから、むくりと体を起こす。けれど、あぁ。思考がまとまらない。そんな中で周囲を見回す、が……。
「あれ?ここ、どこ?」
目の前に広がるのは、見慣れない部屋。そして半ば寝ぼけていた私が昨日のことを思い出したのは、それから数秒しての事だった。
「……あぁ、そうだ私、転生したんだ」
見慣れない部屋に、頭の上に大量のハテナマークを浮かべていたけれど、やがて意識がはっきりしてくると、思い出した。昨日、前世の私は死に、そしてこの世界に転生したという事実を。
その後、目を覚ました私は宿で朝食を取り、身だしなみを整えるとホルスターを装備し、そこから
取り出して、片手で構えて見たり、両手で構えて見たり。あと普通ならマガジンのチェックとかをするんだけど、これは普通の武器とは違うから、必要ない。ただ手動で操作するセイフティがあるから、そこを右手親指で押し上げてセイフティを掛けておく。
ホルスターに
「よしっ!」
準備は出来た。向かうのは、当然冒険者ギルド。宿を出て真っすぐギルドに向かった。本当なら防具とかも必要なのかもしれないけれど、それは後回しにする。今は資金的に余裕も無いし、まずは冒険者としての仕事と生活に慣れる事が最優先。それに、着慣れない鎧を着て慣れない仕事ってのもちょっと怖いし。
宿を出て、少しすればギルドに到着するんだけど。
『人多いな~~』
そう思うくらい、ギルドの周囲は冒険者らしい武器と防具を纏った人たちでごった返していた。ギルドの外で道の隅にたむろし話をしている人たちがたくさんいた。そんな人たちを後目に何とかギルド内部に入るけど、ギルド内部、それも依頼が張り出されているボードの周囲と依頼受注の手続きをする窓口は人でごった返していた。
皆ボードの前で、依頼をそれこそ奪い合うかのような状況。どうしよう。あの人込みの中に入っていくのはちょっとなぁ。なんて思っていると、ボードと少し離れた壁際で、何人もの人がボードの方を見ながら待機していた。
あ、もしかしてボード前が空くのが待っているのかな?それなら、私も少し待とうかなぁ。
って事で、私もその人たちと同じように隅っこで人が減るのを待っていた。しばらく待っていると、ようやく人の数も減って来た。それを見た壁際の人たちが動き出す。けど、私はもう少し待つ事にした。何しろ一番の新人だからねぇ。下手に他の人にイチャモンつけられても嫌だし、更に追加で待つ事に。
そして更に数分もすれば、ようやく人の数もだいぶ減って来た。
「さて、と」
そこまでしてようやく私は動き出した。来た時は大量に張り出されていた依頼も、半分以上が剥がされ、残っているのは新人のGランク用の依頼や一つ上のFランク用の依頼が少しずつ残っているばかりだった。
さて、何か私に出来そうな依頼はあるかなぁ。出来れば全領域対応型兵装を活かせる、討伐系の依頼でもあれば良いんだけど。
「お?」
依頼を吟味していると、見つけた。『ゴブリン討伐』と書かれたGランク用の依頼書。え~っと、内容は?
依頼書に書かれていた内容を簡単に纏めると、町の近郊にある森に潜むゴブリンを討伐し、証拠となる体の一部、耳を持ち帰ってこい、という物だった。報酬はゴブリン1匹につき、小銅貨3枚。耳の数を持ち帰れば、それだけ貰える報酬も多いとの事。
他にも依頼書を確認するけど、討伐系の依頼はこれだけみたい。となれば、これしかないか。
私はゴブリン討伐の依頼書をボードから剥がすと、受付に並び、依頼を受注した。森へのルートも窓口で教えてもらい、すぐさまギルドを出て、森に向かった。
その道中。
≪やっほ~。おはようハルカ≫
≪あっ、女神様。おはようございます≫
頭の中に直接響く女神様の声。
≪今日は依頼を受けて森に行くみたいね。あら?ゴブリン討伐を受けたのね≫
≪えぇまぁ。って、なんで分かるんですかっ?≫
≪簡単よ。あなたの記憶の一部、つまりほんの1時間前の記憶を覗いたのよ≫
≪あぁ、成程≫
そう言えば女神様過去が見られるんだっけ。まぁそれは良いか。
≪それよりハルカ、いきなり討伐系の依頼だけど、大丈夫なの?≫
≪大丈夫です、って自信たっぷりに返事する事は出来ないんですけど。こういった依頼じゃないと
≪そうよねぇ。現代の日本じゃそういうのとは無縁だからねぇ。こういうのは、やって慣れていくしかないはよねぇ≫
≪はい≫
女神様の言う通り、現代の日本で生きていれば血なまぐさい事とは、大体の場合無縁でいられる。でもこの世界の冒険者は違う。戦い、魔物を殺す事は普通。その普通に、早く慣れないと。
不安はあるけれど、依頼を受注した以上やるしかない。私は緊張しながらも森を目指し、やがてたどり着いた。町から続く草原を歩いていると、前方に森が見えて来た。あの森の中にゴブリンがいるんだ。
そう思うと、不安になって思わずゴクリと固唾を飲んだ。でも私は不安を振り払うように頭を被り振った後、ホルスターから
親指でマニュアルセイフティを解除する。これで後は、狙いを定めて撃つだけ。それで弾が出る。
いよいよ実戦か。そう思うと心臓が早鐘を打つ。グリップを握る手が震える。その時。
≪大丈夫よ、ハルカ。今は私があなたを見守っているから≫
≪ッ≫
聞こえたそれは、優しい声。女神様の声だ。それが私の中に染み入るようにして、不安が和らいでいく。手の震えが止まる。不思議と、『行ける』と思った。
≪ありがとうございます、女神様≫
≪良いのよ。今は私があなたを見守っているから。さぁ、行きなさい。初仕事よ≫
≪はいっ!≫
女神様が傍に居て、見守ってくれている安心感。おかげで覚悟も決まった。私は元気よく返事をすると、森の中へと足を踏み入れた。
森の中は一切整備がされてない。草や枝なんかに足を取られないように、慎重に進みながら、周囲を警戒している。
どこから敵が来るか、或いはいつ出くわすか分からない緊張感。冷や汗が何度も背筋を伝う。そのせいで時間の間隔も分からなくなっていた。
森に入ってから数分、或いは数十分経過したかもしれないその時。
「んっ?」
不意に、何か音が聞こえた気がして足を止めすぐに周囲を見回した。パッと見た限りでは何もない。でも棒立ちは危ないよね。これでもPvPのFPSを少しだけやった事があったから、私はすぐに近くの木の陰に隠れた。
そこから、両手でしっかり保持した
見える範囲にはいない。けど、森の中だけあって視界も悪い。茂みや木が視界を遮っているから見えないだけかもしれない。……行ってみるしか、無いか。
私は木陰からゆっくりと立ち上がり、
音のした方向は分かる。1歩1歩、周囲を警戒しつつ音がした方へと足を進めた。
どれくらい進んだだろう。しばらく進むと、見つけたっ!
「ッ!」
思わず息を飲み、踏み出しかけた1歩を止め思わず下がって木陰に隠れた。
私が見つけたのは、ゴブリンの群れだった。ただし群れ、と言っても大きな群れじゃない。3匹程度のゴブリンだった。それが私から、10メートル以上は離れた所でイノシシらしい死骸の肉を食い漁っていた。
「あれが、ゴブリン。今、私が倒すべき魔物っ」
幸いな事に、ゴブリンたちは食事に夢中で私の方向に背を向けていた。これはチャンス。私は木陰から半身を晒し、静かに狙いを定めた。
「すぅ、はぁ、すぅ」
狙いを定める。静かに呼吸をし、手ブレを抑える。そして、銃身上のサイト、リアサイトとフロントサイトがゴブリンに重なった、その時。
「ッ!当たれぇぇぇぇぇっ!!」
願いを声にしているように、私は叫びながら引き金を引いた。直後に響く銃声と手を伝う反動。
射撃の際のマズルフラッシュに驚き、咄嗟に目を閉じてしまう。すぐさまもう一度目を開いた。その視線の先で……。
『ギアァァァァァッ!?!?』
1匹のゴブリンが、胸から血を吹き出しながら悲鳴を上げ、倒れる所だった。
「ッ!?あた、当たったッ!」
初弾で当たったっ!やったっ! その時の私はただ、当たった事に喜んでいた。
≪ハルカッ!呆けないでっ!まだ敵はいるのよっ!?≫
「ッ!」
その時聞こえた女神様の叱責に思わず息を飲んだ。
『ギャギャッ!!』
『ギャァァッ!!』
直後、私に気づいた残りのゴブリン2匹が、傍に置いてあったこん棒や粗雑な剣を手にこっちに向かってきたっ!
「き、来たっ!?」
≪撃ってっ!早くっ!≫
「は、はいっ!!」
初弾を当てた喜びは消え、今はただ、女神様の指示に従う事だけを考えていた。ゴブリンは残り2匹。その2匹は真っすぐ私の方に突進してくるだけっ!
「う、うあぁぁぁぁぁぁっ!!」
私はゴブリンに向かって、悲鳴にも似た雄叫びを上げながら何発も、何十発も引き金を引いた。
1発、2発、外れたっ!3発目っ!2匹目の頭に運よく当たったっ!次っ!4発目っ!奇跡的に3匹目のゴブリンの右腿の辺りを貫いたっ!
『ギギャァァッ!!』
足を撃ちぬかれたゴブリンが悲鳴を上げながらその場で倒れ転がったっ。私はそれに足早に近づくっ!仕留めなきゃっ、そんな考えが私を突き動かす。
そして私は震える腕で上半身を起こしたゴブリンを見下ろしながら、引き金を引いた。
「ハァ、ハァ、ハァッ!」
3匹全部のゴブリンを殺した私は、肩で息をしていた。初めての戦闘、勝ったのは良いけど。でも勝利の喜びなんて、湧いてこなかった。あるのはただ、自分が命を終わらせた、殺したという現実と、そこから来る不快感。
胃の中がムカムカする。頭や腹から血を流すゴブリンの死骸を見ていると、今にも吐きそうだった。
≪ハルカ、今は余裕ないと思うけど、速く耳を回収して離れないと。ゴブリンの血の臭いで他の獣とかゴブリンが来たら厄介だから。ね?≫
≪わ、分かりました≫
その後、私は手持ちのナイフが無かったため、ゴブリンが持っていた粗雑な剣を使って耳を切り落とし、森で見つけた大き目の葉っぱに包んでリュックの中へ。
それから私は、とりあえずその場を離れた。女神様の言う通り、血の臭いに獣とか、他の魔物が寄ってくると不味いから。
歩く事数分。適当な木陰で私は地べたに座り込んだ。なんか、たった数分の事なのにドッと疲れた。
≪ハルカ、大丈夫?≫
≪大丈夫、とは言えないですね。正直、気持ち悪いですし、どっと疲れました≫
≪まぁ、無理もないか≫
女神様は私の言葉に同意するように言葉を漏らすと、いつぞやのように、女神様の幻が私の隣に腰を下ろした。
≪どう?初めての実戦は?≫
≪……戦争映画とかで、兵士の人たちがPTSDに苦しむ姿を見た事があるんですけど。その気持ち、なんとなく分かりました≫
≪そっか。……それで?冒険者はどう?続けられそう?≫
≪……≫
本音を言うと、しょっぱなから出鼻をくじかれた感じ。勝利の喜びとかは無い。でも、それでも。
≪続けますよ。一度は自分で選んだ道ですし。それに、冒険者でもなければ
私はホルスターに収めた
だから私は、冒険者を続けるんだ。
≪そう。なら、頑張って≫
女神様は私の言葉に満足したのか、笑みを浮かべると幻は消えていった。粒子に分解され、風に消えていく女神様を見送ると、私は立ち上がり勢いよく両手で頬を叩いた。
パンッ、と音が響き両頬が痛い。でも、おかげで気合が入った。
「よしっ!もういっちょ行きますかっ!!」
高々3匹程度じゃ稼いだとは言えない。だからこそ私は、もっとゴブリンを討伐するために、森の中を、
こうして、私の冒険者人生は幕を開けた。
第5話 END
異世界百合旅~~転生した私は百合好き女神からチート武器を与えられ、冒険に出ましたっ!~~ @yuuki009
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