第4話 冒険者登録

 チート武器を手に異世界へと転生した私は、テレパシーで女神様と話をしながらも、とりあえず町へと向かった。


 女神様と話しながら歩いていた私はとうとう町が見えるところまでやってきた。今は前方に見える町へと続く街道を歩いていたんだけど、そこを行くのは私だけじゃない。


 時折馬車が私の傍を通り過ぎては町へと向かって行く。

「お~~~」


 初めて見る本物の馬と馬車に感動して思わず声が出てしまった。

≪おや?ハルカ、もしかしてちょっと興奮してる?≫

「そりゃまぁしますよ。生まれてこの方、本物の馬車なんて見た事無かったんですから。馬だって動物園で数える程見かけたくらいですし。やっぱり映像で見るのと生じゃ違うなぁって」

≪成程成程。まぁ無理もないかな。この世界はハルカの居た現代とは何もかもが違う。君は色んな事に驚くかもしれない。まぁそれこそが新しい発見なんだけどね≫

「そうですね」


 ここは私の知らない世界。私はこの世界の事、まだ何も知らない。でも、だからこそ知りたい。旅をしてみたい。色んな事を経験してみたい。そう思うとワクワクが止まらなかった。期待感で胸が膨らみ、心臓が早鐘を打つ。


 が。

≪おっと、そういえば一つ言い忘れてたよ≫

「え?なんです?」

≪こうしてハルカは私と会話してるけどさ。これ、厳密に言うとテレパシーによる会話だから、口から言葉を介する必要はないの。ただ頭の中で言葉を思い浮かべるだけで良いからね≫

「は、はぁ。でも、なんで今その話を?」


 なんでその話をするんだろう?と私は首を傾げた。

≪だって、頭の中で会話しないと。ハルカは私と話す時、私の声はハルカにしか聞こえないから、周りからすればずっと虚空に向かって話しかける不思議ちゃんになっちゃうよ?それでも良いの?≫

「ッ!?そ、それは嫌ですっ!」


 何それ恥ずかしいっ!あ、危ないっ!もしこのまま町にでも入ってたらきっと変な目で見られてたよっ!?め、女神様が言ってくれて助かった~!


 結構恥ずかしい状況にならなくて良かったと安堵しつつも、もしそうなっていたら?と思うと、今度は恥ずかしさのせいで心臓がうるさかった。ま、まぁとにかく。


 頭の中に言葉を思い浮かべる、だから。

≪こ、こんな感じで大丈夫です、か?≫

≪うんうん。OKよ。これなら周囲に不思議ちゃんとして見られる事も無くなるから、安心してね≫

≪は、はい≫


 うぅ、危なかった~。町中で一人喋りまくるのは恥ずかしすぎるっ!っていけないいけないっ!今はそれよりも町にたどり着かないとっ!今日中に冒険者登録をして、宿を取ってっ!よしっ!とにかく今日はこの2つっ!



 それから女神様と頭の中で雑談しつつ歩いていると、ようやくたどり着いた。町を囲う城壁にある門の入り口。その入り口では鎧と槍を持った、門番さんが複数人居た。何人かは町に入っていく人たちに注意を向け、他の人たちは町に入ろうとしている馬車の荷物を検めていた。


 いかにもファンタジーな兵士や門番さん達の仕事シーンって感じ。……って、そうだ。どうせだから聞けるかな?とは言え、武器持ってる人に声を掛けるのは勇気がいるなぁ。えぇいままよっ!


 私は暇そうにしている門番さんを一人見つけると、そちらに歩み寄った。

「あの~~」

「ん?なんだ?」

 私がおっかなびっくり声を掛けるとその人は私の方に視線を向けてきた。


「すみません、私今日この町に着いたばかりの者なんですけど、冒険者ギルドの場所って教えてもらえますか?」

「ギルド?あぁ君、もしかして冒険者か?」

「い、いえ。実は田舎から出てきたばかりでして、登録とかをしたいと思ってまして」

「成程。ならここから正面の大通りを進んでいくと良いよ。しばらく行くと中央が広場になってる十字路に出る。その辺りまで行けば分かるだろうから」

「そうですか。ありがとうございますっ。失礼しますっ」

「あぁ」


 幸い優しい門番さんだったので、私は一礼するとそのまま町の中へと足を進めた。……ってこれ勝手に入って大丈夫だよね?まぁ門番さん達にも声を掛けられてないし、大丈夫、だよね?


 まぁ気にしても始まらないし、変に挙動不審だと逆に怪しまれるかも。うん、とりあえず中に入ろう。


 私は内心、後ろから門番さん達に呼び止められるんじゃ?と考え心臓をバクバクと鳴らしながら城門を越えて町の中へと進んだ。


「あっ」


 そして、町中へ入ると私は思わず声を漏らした。目の前に広がっていた光景が、現代日本に住んでいた私にとっては幻想的であり、ファンタジーな物だったから。


 現代日本にはない、木材や石で作られた家屋が立ち並び、大通りの両脇ではいくつも露店が開かれていた。そこで野菜や肉を売る人や、それを買う人たちが居て、私の傍を、後ろから来た馬車が通過していく。蹄が石造りの道を叩く音さえ私には新鮮だった。


 それから数秒、私は町の景色に見とれていたのだけど。

≪ちょっとハルカ。ぼ~っとしてる場合じゃないの?≫

≪はっ!?そうだったっ!≫


 女神様に声を掛けられてようやく我に返った私は、足早に歩き始めた。大通りを真っすぐ進んでいく。


 その傍らで、道行く人たちや街並みを観察していた。やっぱり、私の前世と何もかもが異なっている。服装しかり、人々の様子しかり。


 見るもの全てが新鮮で、これから私はこの風景が当たり前の世界で生きていくんだ。……そう思うと緊張するなぁ。

 

 頼れる親も居ない。頼れる当てがあるとすれば会話が出来る女神様一人だけ。うぅ、不安だぁ。


≪何よぉ、私じゃ頼りないって言いたい訳?≫

 おっと、女神様に心の声が筒抜けだった。

≪いや、そう言うわけじゃないんですけど、まだ転生して数時間ですからねぇ。色々不安になっちゃうんですよ≫

≪そう。まぁ、慣れていくしかないわね。当面は、とりあえずこの世界、この町での生活に慣れる所から始めた方が良いんじゃない?幸い差し迫った用事とか、今すぐ解放しなきゃいけない形態がある訳でもないし≫

≪そうですね≫


 女神様の言葉に私は頷いた。とにかく今は、ギルドに行こう。不安な事とか考えてると、余計悪い方に考えちゃいそうだし。


 それからしばらく大通りを歩いていると、あの門番さんに言われた通り、中央が公園広場のようになっている十字路へと出た。


 え~っと、この辺りまでくれば分かる、って話だったけど?


 周囲を見回し、ギルドらしい建物を探す。

「ん?」

 その時私の目に飛び込んできたのは、他より二回りは大きい木造の建物だった。しかもその入り口付近では、冒険者らしい武器や防具に身を包んだ人たちが出入りしていた。もしかしてあそこかな?行ってみよう。


 ギルドらしい建物に近づいてみると、当たりだった。入口の上の大きな看板に書かれた『冒険者ギルド』の文字。本来ならば、まったく知らないし読めないはずの文字だけど。何故か意味が分かった。


 ……うん、この感覚には早く慣れよう。知らないし読めないのに読めるって、違和感が凄すぎてちょっと気持ち悪い。


 って、こんな事考えてる場合じゃなかった。登録早く済ませて宿を探さないと。


「よしっ」

 緊張はしてる。でも行くしかない。私は恐る恐ると言った様子で、開かれたままの扉をくぐり、冒険者ギルドの中へと足を踏み入れた。


「おぉ~~~~」


 そして、踏み入れた先に広がる光景に、私は思わず驚嘆の声を漏らしてしまった。


 冒険者らしい、武器や防具で身を固めた人たちが受付窓口らしいところで職員の人たちから報酬を貰っていたり。

 依頼が張り出されている掲示板らしいものの前で、真剣な様子で依頼を吟味していたり。


 これこそまさに私が知ってる冒険者とギルドの風景っ!凄い凄いっ!いや、確かにゲームやアニメで見慣れた風景だけど、それが今現実となって私の目の前に広がっている事に感動していたっ!


≪ちょっとハルカ。何ぼ~っとしてるのよ。早く登録するんじゃなかったの?≫

≪はっ!?そうでしたっ!≫

 見とれていたのも束の間。女神様に指摘されて私は我に返った。って、そういや登録とかってどうやれば良いんだろう。


 誰かに聞くべきかなぁ。

「う~ん。ん?」

 ふと、周囲を見回していると、『冒険者登録窓口』と書かれた看板を掲げている窓口があった。更に言えば、そこには私と同い年くらいの男の子や女の子とかが並んでいた。あそこ、で良いのかな?まぁ違うなら違うで聞くだけだし。とりあえず並んでみようっ!


 って事で私は早速その列に並んでみた。ただ、この列で間違いないみたい。なぜなら先に並んでいた人たちの会話が聞こえてくるから。その内容は、やっぱり冒険者登録に関わる物だった。それなら一先ず安心安心。


 で、待つこと数十分。退屈で何度も欠伸をしながら待っていると。

「次の方~」

「あ、は~いっ」

 私は窓口のお姉さんに呼ばれ、そちらへ足を進めた。


「ようこそ、冒険者ギルド、エルシア支部へ。本日のご用は冒険者登録でお間違いないですか?」

「は、はいっ、そうですっ」

「分かりました。では、これから手続きを始めますね」

 窓口に居た、眼鏡を掛けた知的なお姉さん。緊張した様子の私の言葉に、しかしお姉さんはにこやかに微笑み、そして手続きを始めた。



 そこからは、名前や年齢を教えたり、いくつかの質問に答えたり、いくつかのルールや注意事項が説明された。


 例えば冒険者には『ランク』と呼ばれる物がある事。上から、S、A、B、C、D、E、F、G、と8つのランクがある事。冒険者が受ける依頼にも、同様のSからGまでのランク分けがされており、自分のランクより上の依頼は基本的に受けられない事。ランクは冒険者が依頼をこなして実績を作ると、ギルド側からの提案でランクアップするかどうか聞かれる事などなど。


 他にもギルド内では私闘禁止。不必要な武器の使用禁止。依頼をちゃんとした理由無く断る事は厳重注意の対象となる事。また、これらルールに従わず、厳重注意を複数回受けた場合は冒険者の資格無し、として資格がはく奪される事など、色んな説明を受けた。


 そして最後に。

「では、これで登録は完了になります。最後にこれを」

 そう言ってお姉さんが取り出したのは、軍隊で兵士の人たちが持つ認識票、ドッグタグに似た金属のプレートだった。


「これ、って?」

「それは冒険者の皆さんにお配りしている認識票、『ステータスプレート』、という物です。そのステータスプレートには皆さんそれぞれの名前や性別、年齢、現在のランク、冒険者登録を行った登録地が記載されています。また、依頼を受注した際にはそれを見せる事が必須になりますので、無くさないようにお願いします」

「わ、分かりました」

「それと、もし森や街道などで他の冒険者プレートを発見しましたら回収の上、ギルドに必ず提出してください」

「提出、ですか?」

「はい。ただの落とし物、という可能性もありますが。そうでない場合、森で命を落とした方の物、という可能性もあります。安否確認として必要ですので、ご協力お願いします」

「わ、分かりました」


 森で落ちてるプレートってつまり……。うぅダメダメ。これ以上は考えたくないっ!そういうのは今考える事じゃない、うんっ!


「では、これにて登録は終了します。良い冒険者ライフを」

「あ、ありがとうございました」

 とりあえずこれで登録は完了。私は窓口を離れ、とりあえず適当な壁際に移動し、そこで改めて受け取ったプレートを確認する。

 

 そこに記載されていたのは、『ハルカ』という名前。女という性別。16歳という年齢。そして登録地であるエルシア支部の名前と、ランクのGという文字。


 これが今日から、私が冒険者である証かぁ。それからしばらくプレートを眺めていたんだけど。少ししてまたハッとなった。


 そうだったっ!急いで宿を探さないとっ!誰かに聞けないかなぁ、と思ってすぐに周囲を見回すと、さっきの窓口とは違う、『総合案内』と書かれた看板の窓口があった。あそこなら、話聞けるかな?そう思って私は、今度はそっちの列に並んだ。


「次の方、どうぞ~」

「は~い」

 しばらくすると呼ばれ、窓口へ。

「本日のご用件は何でしょう?」

「えと、実はこの町に来たばかりで、宿のある当たりとか全く知らなくて。出来れば新人冒険者向けの宿とか、紹介とか、教えてもらえないかなぁと思いまして」

「成程。そういうことですか。分かりました」


 窓口に居たのは爽やかイケメン風の眼鏡を掛けたお兄さん。その人も丁寧に対応してくれて、おすすめの宿がある場所を教えてもらった。私はお礼を言って窓口を離れ、すぐにギルドを出て歩き出した。


 対応してくれたお兄さん曰く、宿は早めにとっておいた方が良いですよ、との事だった。なので私は教えられた方向へ向かって歩き出した。


 向かうのは町の中央にある十字路の広場。ギルド方面の道から見て正面。広場を挟んだ反対側の大通りへ。この辺りは冒険者や商人向けの宿屋や飲み屋が集中している辺りらしく、食事にも困らずギルドにもほど近い場所だった。


 そんな大通りを通って、教えてもらった名前の宿を探し、見つけると中に入って空き部屋があるかどうかを確認する。


 けど、最初の2つは満室になってしまっていた。仕方なく3つ目の宿へ。

「すみませ~ん」

 少し古い感じの宿だったけど、贅沢は言っていられない。意を決してドアを開き中へ。

「は~い、いらっしゃい」

 すると入ってすぐのカウンターに、恰幅の良いおばちゃんがいた。暇そうにしていたおばちゃんの、少しやる気のない声が私を出迎えた。


「あの~、部屋に空きってありますか?」

「あぁ、空いてるよ。取るかい?」

「はいっ。あ、でもその前にいくつか聞きたい事があるんですけど、良いですか?」

「ん?なんだい?」

「え~っとですね」


 その後、私は部屋を1か月借りた場合の料金や食事の提供の有無などを聞いて、特に問題も無かったので、この宿に決めた。


「じゃあ、とりあえず部屋を一つ。まずは2週間契約で」

「あいよ。2週間なら、中銅貨1枚と小銅貨2枚だね」

「はい、ちょっと待ってくださいね」


 私は背負っていたリュックを下ろすと、中から巾着を取り出し、丸い銅貨を2枚と、三角の銅貨を1枚取り出して渡した。

「はい、丁度もらったよ。ほいじゃ鍵はこれだよ。部屋はそこの階段上がって2階、一番奥の210って書いた部屋だからね」

「分かりました」


 私はリュックを背負いなおすと鍵を受け取り、階段を上がって部屋に向かった。


 ちなみに、お金に関しても町にたどり着くまでに女神様から教わっている。


 この世界のお金は、基本的に全世界共通で、金貨・銀貨・銅貨に分けられ、更にそこから大中小に分けられる。一番上が大金貨であり一番下が小銅貨、って感じになってるらしい。小サイズが円形。中が三角形。大が四角形、って感じに分類されているみたい。


 話を戻して、部屋の前にたどり着いた私は鍵を開けて部屋の中へ。部屋自体はとても質素な物で、人が一人普通に暮らせる類の物だった。


「ふぅ」

 なんだかんだで歩き通しだった事もあり、私はリュックを床に置くと、部屋に合ったベッドの上に腰かけ息をついた。さぁて、とりあえずこれで今日やるべき予定は全部終了。


≪お疲れ様ハルカ。今日の予定はこれで終わり?≫

≪えぇまぁ。なんだかんだ歩きっぱなしで疲れましたし。今日はもう早めに夕食食べて休みたいです≫

≪そう。それならお休み。私は一度退散するわ。もし話がしたかったら頭の中で私を呼んでね?じゃあね~≫

≪は~い≫


 女神様が離れていく感覚が不思議と分かる。まぁそれは良い。って言うか転生、いや正確には転移してから何も食べてなかったからお腹減ったなぁ。この宿、朝食は用意するけど、他は自分で何とかしてくれって話だったし。


 まぁ宿の周りに何軒か飲食が出来る食事処があったみたいだから、とりあえずそこで夕食済ませて来ようっと。


 その後私は部屋を出て、宿の近くの食事処へ。そこで簡単な料理を食べると真っすぐ宿の部屋に戻って来た。


「は~~お腹いっぱい」


 本当はお風呂とかに入りたかったけど、ファンタジー世界の安宿じゃそういうの無いみたいだし。借りられるとしたらお水と体を拭くタオルくらいらしいし。仕方ない。ってか、お腹いっぱいになったら眠くなってきたなぁ。


「ふ、あ~~~」

 私は欠伸を一つ漏らすと、そのままベッドに横になった。眠気がすぐに襲ってきて、瞼が重くなってくる。そして眠りに落ちる寸前に考えた事。


 それは、明日から始まる冒険者生活への、不安と。期待だった。どんな未来と、どんな出会いが待っているんだろう。

 

 そんなことを考えながら私は眠りにつき、そして私の、異世界での最初の1日は終了した。


     第4話 END

 

 

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