第3話 始まりの町へ
ひょんなことから百合好き女神によって強力な転生特典、
「ここ、は?」
今、私は現在地がどこかも分からない草原の上に立っていた。緑色の絨毯がなだらかな曲線を描きながらどこまでも続く。遠方に見えるのは大きな山。空を見上げれば青い空と白い雲、そして眩しい太陽。ここが、異世界なの?
ふと、そんな疑問を思った時。
≪そうよぉ。ここは正真正銘異世界よ≫
「ッ!」
不意に頭の中に響いた声ッ!?これ、女神様の声っ!?慌てて周囲を見回すけど、誰も居ないっ!
≪も~。何慌ててるのよ。さっきテレパシーの話、したでしょ~?≫
「あっ」
再び聞こえた女神様の、少し呆れた様子の声で私は納得した。
「これ、確か
≪そうよ。今私は、神の住まう場所、神界から
「はい。でも、一体何の話を?」
≪それに関しては、道すがらで良いんじゃない?ここから一番近い町までだって徒歩だと1時間以上かかるし。まずは、そうね。自分の服を見て≫
「服?って、何ですかこれっ!?」
自分の体を見下ろしてびっくりっ!さっきまで着ていたはずの学生服は消え、今私が羽織っているのはファンタジーゲームによくありそうな、安い服と言った感じの物だった。
「えっ!?なんか服変わってるっ!?なんでっ!?」
≪そりゃぁ、学生服なんて着たままじゃ目立つからよ。こっちの世界とハルカの居た世界じゃ技術レベルが違うからね。だから悪いけど、服はこっちで取り換えさせてもらったから。これなら不必要に目立つ事も無いしね≫
「そ、そうですか」
言われて確かに、と納得する。ファンタジー世界で学生服来た女子が歩いてたら確かに目立つよねぇ。もしそうなって、変な人たちに目を付けられたりしたら、誘拐とかされちゃうかもっ!?
「ッ!」
そ、そう思うとこの服装の方が良いような気がしてきた。
「あ、ありがとうございます、女神様」
≪良いのよ。これもアフターケアみたいな物だから。それに、プレゼントはまだあるわよ?≫
「え?」
プレゼント、って何のこと?と内心思いながら首を傾げる。もう特典武器である
≪はぁい。それじゃあその場で、後ろ向け後ろっ!≫
「えっ?は、はいっ!」
突然の事に戸惑いながら後ろを向く。視界に入って来たのは1本の木。え?まさかこれが?と思っていると。
≪さらに下向け下っ!≫
「し、下っ!?って、あれっ?」
なんで下?と思いながら下、つまり足元を見る。するとそこに見覚えのない茶色の革製のリュックが置かれていた。
「何これ?」
≪それが私からの追加プレゼントよ。まぁ、私の趣味に巻き込んだ謝罪の品って所かしらね。開けて見て≫
「は、はい」
私は一度木陰に腰を下ろすと、リュックを開け中に入っていた物を一度取り出した。まず取り出したのは……。
「これ、ホルスター?」
真っ白なベルトのような道具、銃を収めるためのホルスターだった。
≪それは
「はい」
一度立ち上がり、ホルスターを腰に巻くようにする。すると次の瞬間、ホルスターが独りで収縮しピッタリした所で止まったっ!
「わっ!凄いっ!」
≪そのホルスターにはね、持ち主の体形や衣服に合わせて自動でフィットする機能付きなのよ。加えてホルスターに武器を収めている間は、どんなに激しい動きをしても落ちない優れもの。更に9つの形態を持つ
「へ~~!凄いですねっ!」
女神様の説明を聞き、驚き興奮しつつも傍に置いていた
っと、まだ他にもあるんだった。他には何が?と思いつつリュックの中に入っていた物を取り出す。他に入っていたのは、替えの下着と服。女神様が用意してくれたこの世界のお金が入った袋。そしてこの世界の大まかな地図だったんだけど……。
「ん?んん~~~?」
私は地図を見つめながら首を傾げていた。それは地図に使われている文字が読めない、という事じゃなかった。
≪おや?首を傾げてどうかしたの?≫
首を傾げる私を気にしてか女神様が声をかけてくれた。
「あ、えと。女神様に聞きたいんですけど、この地図に使われてる言葉って、この世界の言葉ですよね?」
≪うん。世界共通語、と呼ばれるこの世界で最も使われている言葉だよ≫
「じゃあ、なんでそれを異世界から来た私が読めるんですか?」
私が首を傾げた理由。それは地図に載っていた各国の名前が、見た事も無い文字で書かれているのに何故か私にはそれが読めたのだ。
分からないはずなのに読める。それが何と言うか矛盾しているようで困惑した。
≪簡単よ。ハルカ、あなたには転生の際に言語翻訳の力がインストールされているの≫
「それって、さっき私に全領域対応型兵装の知識を入れたみたいな物、ですか?」
≪まぁそういう認識で良いわね。おかげで言葉や会話、読み書きで困る事はないわ。文字を書いたりする時も、意識せず体が勝手にこちらの言葉で書いてくれるから。間違えて日本語で書いちゃった、って事も無いと思うから安心して≫
「成程。分かりました」
見知らぬ土地で言葉も文字も分からないのはキツイ。そういう知識のインストールは素直にありがたいなぁ。
≪さて、それじゃあ最後に全領域対応型兵装の確認をしよっか。手に持ってみて≫
「はい」
私は言われるがまま、ホルスターから
≪それじゃあ、それを見つめながら意識を集中して。スキル画面出ろ~、って感じでね≫
「はいっ」
扱い方は、事前に知識がインストールされてるから分かる。けれど実際にやってみるのは初めて。だから緊張する。私はその緊張を落ち着けるために数回、深呼吸をしてから手にした
すると、私の眼前にディスプレイが浮かび上がった。そのディスプレイには、ただ9つのアイコンが円を描くように映し出されていた。そのアイコン一つ一つが、
例えば
ただし、
「やっぱ無理ですか」
≪そりゃ封印されてるからね。それより、アイコンに注視してみてよ。そうすればスキルシステムの画面に行って、さらにスキルツリーとかが見られるからさ≫
「はい」
やっぱりダメか、なんて思いつつ女神様の指示に従って、
切り替わった画面に映し出されているのは、
中央にある
「あの、女神様」
≪ん?どしたの?≫
「
≪あぁ、そのこと?でも残念、
「え?ほど、って事はもしかしてスキルの数が一番多いのって、この
≪そうよ。この
「はい」
その後、女神様の言葉に頷くと一度広げていた荷物を戻し、ホルスターに
≪さて、ここからしばらくは歩きだし、さっき言った通りまずは拳銃形態のスキルについて概要を説明しておこうか≫
「お願いします」
≪OK。まずは
「豊富、って言いますけど具体的にはどんなのがあるんです?」
≪主にスキルの方向性は2つ。銃本体の強化及び追加パーツの解放系。もう一つが特殊弾や特殊スキルの解放、と言った所かな。まぁその内容について詳しくここで語っても良いけど、どうする?ハルカとしてはどんなスキルがあるか自分の目で見てみたい、とは思わない?≫
「……それはまぁ、思いますけど」
確かにどんなスキルがあるのか、人から話を聞くくらいなら自分で見て確かめてみたい。
≪じゃあこの話はここで終わり。それにいくらレベル1の素の状況とはいえ、十分強いからね?リアルな銃と比べても銃声は小さいし反動も皆無だからね≫
「へ~~。……ちょっと試し撃ち、してみて良いですか?」
≪ん?良いよ~≫
聞く分だと凄いけど、試してみたかった。女神様に聞いてみると、OKが出たので私は足を止め、ホルスターから
扱い方は既に分かってる。グリップを握る右手親指で、銃のバレルの後端付近にあるセイフティを押し上げる。これだけで射撃準備はOK。後は引き金に指を掛けて、それを引くだけ。
「すぅ、はぁ」
あぁでも、やっぱり緊張する。初めての銃を撃つ興奮と不安。そのせいで心臓がうるさい。でも今後はこれで戦っていくしかない。実戦で初めて使うって訳にも行かないし。今の内から慣れておかなきゃっ!!
「ッ!」
覚悟を決めて、ついに引き金を引いた。次の瞬間、爆竹が爆発したような高い炸裂音が響き、ほぼ同時に掌に感じた僅かな衝撃。
「ッ!?」
それに思わずびっくりして息を飲んだ。見ると狙って撃った地面の辺りが僅かにへこんでいる。い、一応ほぼ狙った場所に当たったけど……。
「は、はは。ヤバい。分かってたけど本物の銃だ、これ」
撃った時の音も、手に広がった衝撃も、確かに本物の銃みたいだった。……本物がどんな感じかは知らないけど。
でも確かに、これは玩具なんかじゃないと、撃った時の感触が教えてくれた。これは間違いなく、相手を倒すための、違う。殺すための武器なんだ。そう思うと、急にこの全領域対応型兵装が重く感じてきた。
その時。
≪そう。それが武器の重さです≫
「ッ」
不意に聞こえてきた女神様の声。でも、その声色は今までと違い、厳格な感じだった。遊びなど無い、真剣そのものだった。
≪人の子ハルカ。改めて、その武器は他者の命を容易に奪える物である、という事を自覚なさい≫
「……はい」
女神様の言葉に、深呼吸をしてから頷く。そうだ。これは人の命すら簡単に奪える代物なんだ。扱いには、気を付けないと。
≪ってこんな暗い話題はここまでにしよっ!折角転生したばっかりなんだからシリアスモードは無しよっ!≫
と、いきなりテンションを切り替え素に戻る女神様。相変わらず女神らしくないなぁ、とは思いつつも今はその言葉が嬉しかった。確かに転生したばかりなのに暗いのもどうかと思うし。
≪それより今は町を目指しましょ。ハルカだって野宿は嫌でしょ?≫
「確かにそれは嫌ですねぇ」
野宿はヤダなぁ。私は気持ちを切り替え、
それからしばらくは、女神様と話をしながら、女神様ガイドによって町へと向かって行った。ちなみにその道中、どんな話をしたのかって言うと……。
「あの、女神様」
≪ん?なぁ~に?≫
「女神様に聞きたいんですけど、そもそも女の子と仲良くなるのって、どうしたら良いんですかね?」
≪あら?不安なの?≫
「いやまぁ、はい」
疑問符を浮かべる女神様に私は自信なさげに頷く。
「ただ友達になる、とかならそれほど不安はないんですけど。でも形態を解放するには恋人、くらいにはならないといけないって事ですよね?」
≪まぁそうねぇ≫
「そう思うと不安なんですよねぇ。いや、相手の子に私みたいな百合の気があったらまだ脈ありかもしれませんけど、もし仮にごく普通の恋愛観を持ってる女の子だったら恋人なんて無理じゃないですか?」
≪そこはほら、ハルカが相手にかっこいい所を見せて惚れさせていけば良いのよ。そうしてノンケの子を百合に落とすのよっ!≫
落とすって。女神なのにそんな発言していいのかなぁ?なんて思いながら私は苦笑を浮かべた。
「そう簡単に行きますかねぇ?」
≪まぁ、簡単には行かないでしょうね。アニメや漫画みたいな劇的な出会いでもあれば別だろうけど。そうでもない限りは地道に仲良くなっていくか、或いは一緒に冒険者として旅をして、一緒に危機を乗り越えるとか、ね≫
「一緒に危機を乗り越える、ですか?」
≪そっ。まぁつり橋効果みたいな物よ。緊張感に満ちた戦いを一緒に潜り抜ける事でお互いを強く意識するようになる、的な?まぁこの場合は、ハルカの仲間がハルカ自身に恋心を持ってくれれば良いから、ハルカが相手に恋をする必要性はないんだけどね≫
「な、成程」
緊張感に満ちた戦いを仲間と一緒に乗り越える、なんて口で言うだけなら簡単だけど。実戦に関して私は経験無いもんなぁ。うぅ、私、戦えるのかなぁ?
≪大丈夫だよ≫
「え?」
≪そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫≫
「え?……あっ、顔に、出てました?」
女神様の言葉を聞いて、あっと思った。不安が顔に出てたかな?
≪まぁそれもあるんだけどね。こうしてテレパシーで会話してるから。頭の中に浮かんだ感情もなんとなく分かるんだ≫
「そう、ですか」
≪それよりも、さ。確かに初めての実戦で不安になるのは分かる。ハルカは現代人だもん。血とか戦いにはこれっぽっちも慣れてないのも分かる。でも大丈夫。何しろ
「女神様」
なぜだろう。女神様の言葉を聞いていると、胸の内に巣くっていた不安や恐怖の感情が消えていく。これも女神様の力、なのだろうか?それは分からないけれど、でも。安心は出来た。
「ありがとうございます、女神様。おかげで胸がすっきりしました」
≪良いのよ。アフターケアもしっかりしないとね♪そ・れ・に、お礼としてハルカが女の子とイチャイチャする所、た~っぷり見せてもらうから≫
「うっ!そ、そうだったぁっ!」
安堵したのも束の間っ!そうか私、女神様に女の子と百合百合してる所見せないといけないんだっ!何これ拷問かな。百合百合なシーンを全部見られるかも、と思うと恥ずかしさで悶え死にそう。うぅ、今後この見られる生活に慣れていくしかないのかぁ。
≪あ、そうだそうだ。一つ伝え忘れてたから言っておくね≫
「えぇ?これ以上何を伝えるんですか?」
まだ何かあるの?と私は思い気だるげに問いかけた。
≪もし女の子とベッドを共にするときがあったら事前に言ってね?流石に夜の2人まで覗くのは無断だと不味いから要相談って事で≫
「えっ!?はっ!?えぇぇぇぇっ!?」
何言ってるのこの女神様っ!ってか変な事言うから一気に顔が熱くなってるぅっ!ってかもしかしてっ!
「なんですかそれっ!?もしかしなくても私が女の子とっ!そ、そのっ!仮にもベッドでイチャラブしてる所まで見る気ですかっ!?」
≪当たり前じゃないっ!R18な事も含めて百合なんだもんっ!見るに決まってるでしょうがっ!≫
「そんなぁっ!?なんでそんなところまで見せなきゃいけないんですかっ!?変態っ!百合好き覗き女神っ!」
≪その言葉甘んじて受け入れて見せようじゃないのっ!それくらい私は百合が好きなんだからっ!≫
「開き直るなぁっ!」
うぅ、高らかに私の頭の中で声を上げる女神様、もとい変態女神様。私、これからこの人に見守られ(覗かれ)ながら旅をするのかぁ。ハァ、何だかさっきとは別の意味で不安になってきたなぁ。
なんてことを考えつつも、私は歩みを進めた。とにかく今日中に町にたどり着かないと。野宿はヤダもんなぁ。
そして、しばらく歩いていると。
≪あっ、見えて来たわよっ≫
「は、はいっ私も見えましたっ」
小高い丘の上を走る道を登り切った時、その町は見えて来た。前方、丘を下った先、灰色の城壁に囲まれた町が見えて来た。よし、あそこまでなら、もうちょっとだ。
「あと少しで町ですね」
≪えぇ。そうね。……って、そういえばこのセリフ、言ってなかったわね≫
「え?」
セリフ?何のこと?と思った次の瞬間、私の前に光の粒子が現れ、それが集合し形を成した。それは人の形をしていた。けれど透けていて、向こう側が見えた。まるで幽霊のようなそれは、女神様だった。
あの空間で出会った、古代ローマの人の服、確かトガとか言う物に似た真っ白な服を纏い、ピンク色の長い髪が特徴的な、女神様だ。
「こ、これって?」
≪まぁ、一言で言えば空中に自分の姿を投影してるような物よ。影とか幻影、幻って言えば良いかしら?≫
「な、何でわざわざ、そんな事を?」
≪ただ頭の中で話すより、あなたにこのセリフを贈るのなら、こっちの方が良いかなって思って≫
突然の事に驚き戸惑う私を見て、女神様は楽しそうに笑みを浮かべている。
≪人の子ハルカ。ようこそ、危険と冒険、出会いに満ちた異世界へっ!≫
「ッ!」
高らかに聞こえる女神様の声。両手を大きく広げ、歓迎するような仕草。楽しそうな笑顔。そしてその女神様の後ろに広がる、異世界の景色。
あぁ、それを見てると改めて実感する。私は、異世界に来たんだ、と。
そして、今日からこの世界での、私の生活と旅が始まるんだ、と。
そう思うとワクワクしてきた。期待と興奮で胸が高鳴る。早くあの町に行ってみたいと心が訴えてくる。
「行きましょうか、女神様」
≪えぇ。行きましょう。ハルカ、あなたにとっての、始まりの町へ≫
そうして私は、隣に並んで浮遊する女神様と共に歩き出した。向かうのは、私にとっての始まりの町だ。
第3話 END
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