ドラフト当日 中

「それでは、各クラスの指名生徒を順番に読み上げます」


 校長の言葉に、体育館中に緊張が走る。

 どのクラスが誰を指名したのか。

 それが白日の下に晒される。


「第一巡選択希望生徒。2年1組......楠木葵」


(楠木さんでいった!)


 女好きの山本が選んだのは『御原の大和撫子』と呼ばれる楠木葵だった。

 ある意味予想通りの指名であったが、隣に座る岡田の表情が歪んでいる。

 

(岡田先生はあの表情......ということは)


「第一巡選択希望生徒。2年2組......楠木葵」


(そういうことよね)


 岡田も予想通り、書道部の愛弟子である楠木を指名した。

 これで彼女は競合。後ほど抽選となる。


(問題はここよ)


 京子はじっと小早川を見つめる。

 彼の表情に変化はない。

 いつも通り、のほほんとした様子で校長の発表を待っている。

 果たして誰を指名したのか。

 その答えがもうすぐ、明らかになる。


「第一巡選択希望生徒。2年3組......工藤孝太郎」


「えっ!?」


 思わぬ名前に京子の口から思わず声が漏れた。

 他の教員も驚いた様子で、生徒リストをめくっている。

 

(工藤くん......確かに学業成績はよかったけど)


「いやぁ、工藤は1年生の時から僕のクラスだったけど、いい生徒なんですよ。絶対欲しかったから1位でいかせてもらいました」


 会心の指名だったのか、小早川は満足げだ。

 確かに工藤は地味ながら、学業成績は優秀な上位候補だった。

 京子も2順目以降の指名を考えていたほどだ。

 しかし、今年は楠木たち3名が圧倒的に魅力としてずば抜けており、競合覚悟でこの3人へ指名が集中するものだと思っていた。


(でもこれで小早川先生はほぼ指名確定。そして私も......!)


 驚きの余韻に浸りつつも、京子はにやりと笑った。

 この後の佐藤は、既に清水の指名を公言している。

 そのため、京子も単独で田中が指名できる可能性が極めて高い。

 順調なドラフトの滑り出しとなったといって良い。


「第一巡選択希望生徒。2年4組」


(はいはい、清水さんでしょ。佐藤先生も単独指名ね)


「田中和樹」


「......は?」


 一瞬、自分の耳を疑った。

 佐藤は清水の指名を公言していたはずである。

 だが、実際の指名生徒は田中。

 京子が呆然とするように、他の教員も驚いた様子であった。


「第一巡選択希望生徒。2年5組、田中和樹」

 

 そして京子が指名したのも田中である。

 これで彼も競合となった。


(あんのクソメガネ......私のドラフトプランが台無しだわ!)


 この後の抽選のため、小早川以外の教員が体育館の舞台から降りる。

 その間、京子はずっと佐藤を睨みつけていたのであった。


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