ドラフト当日 上
「それではこれより、文系クラスドラフト会議をはじめます」
3月31日。午後13時すぎ。
場所は体育館。
校長が高らかにドラフトの開始を宣言した。
(......結局、あまり寝られなかった)
体育館の舞台に用意された5つの机と椅子。
その1つに京子は座っていた。
彼女が明日から担当するのは2年5組。
指名発表の順番は一番最後のクラスである。
「それでは各クラス、1位指名の生徒をフォームに入力してください」
校長の指示とともに、他4名の指が動きはじめる。
誰も迷いがない。とっくに指名する生徒を決めているようだ。
(落ち着きなさい。状況を整理するのよ)
今回のドラフトにおいて、1位指名が間違いないのは、楠木葵、清水日向、田中和樹の3人。
1巡目の指名はこの3人に集中するといっても、過言ではないだろう。
正直なところ、京子にどうしても指名したい生徒はいない。
だが、3名のうち、誰が1人は絶対にほしい。
だからこそ、指名されそうな生徒を避けて、一番不人気な生徒を指名する。
(まずは山本先生......この人はまちがいなく楠木さんか清水さんかのどちらかを狙っている。田中くんはないわね)
2年1組の担任となる女好きな教師は上機嫌で入力している。
対象的なのは、隣の教員であった。
(......?まだ岡田先生が入力している?)
2年2組の担任、岡田。
書道部の顧問である彼女は、間違いなく愛弟子の楠木を指名するものだと考えていた。
しかし頭を抱えている様子から、ここに来て、迷いが生じているようだ。
これはもしかしたら、楠木以外を指名してくるかもしれない。
(勘弁してよ。岡田先生は確定枠だと思ってたのに)
とにかく岡田もわからない。
次にいこう。
(次は小早川先生か......この人も読めないんだよなぁ)
昨日の夜、話した彼は既に指名を終えたのか、椅子の背もたれに体を預け、ぼんやりと天井を見上げていた。
小早川は先ほどの二人とは異なり、生徒の好き嫌いがないタイプだ。
そのため、誰を指名してくるかわからない。
(この人と競合したら、もうしょうがないで割り切るしかないか)
そう考え、京子は最後の一人へ視線を移す。
佐藤圭。
京子の2歳年上の男性教員だ。
いつも仏頂面で、度の薄い眼鏡をかけており、生徒からも少し怖がられている存在だ。
普段であれば、彼は何を考えているのかわからない人間である。
しかし、今回においては違う。
(彼は指名公言しているのよね)
京子は数日前の職員会議での出来事を思い出していた。
佐藤はその日、先輩の教員からドラフトについて尋ねられ、けろっとした表情で、「僕は清水さんでいきますよ」と答えたのだ。
当然、この話は他の先生の耳に入る。
京子をはじめ、今回、2年生の担任となる教員は全員知っているはずだ。
(そして最後はこの私。ここまでの情報を整理して、私が指名するべき生徒は......!)
意を決して、京子は目の前のPCに指名生徒の名前を入力した。
『田中和樹』
彼女の入力後、まもなくして校長が口を開く。
「全員の指名生徒入力が完了しました。それでは順番に発表していきます」
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