第41話 ホログラムの老人
「どこで、その名前を知った?」
「いやなに、今回の暗殺対象の名前がレナ・オーガストなんだよね。いやー、まさかレナ・オーガストの正体がこんな老人だとは思わなかったけどさ」
いつもよりも視線を厳しくしながら、瀬名はホログラムをじっと睨み返す。
老人のほうは動揺を収めたが、それまでの小馬鹿にした姿は鳴りを潜めて真剣な眼差しを瀬名に向ける。
そこに、お互いに油断や慢心は存在しない。互いの発言、一挙手一投足を逃がすまいと視線をぶつけ合う。
「それで、どこでその名前を?」
「言ったろう?今回の暗殺対象の話だと」
「だが、この私に対してその名前を述べる理由がないだろう?動揺してしまったのは明らかなミスだった。しかし、それ以外に私の事をそう故障する理由がないだろう」
「なるほどな」
老人が気になったのは、やはりどうして自分がレナ・オーガストと名乗っているのかということがバレたのかということ。
瀬名が老人をレナ・オーガストであると認識した瞬間、今回死神に与えられた任務は非常に奇妙なものとなる。
それは、ウォーロットを名乗る老人が、レナ・オーガストと名乗る老人。すなわち、目の前のホログラムが、自分で自分の暗殺依頼をしていることになる。
「今回の暗殺以来はどこか変だった。暗殺依頼を受けた時から、何故その名前だったのか。そもそも、ウォーロットという裏の支配者から連絡が来ることが不思議だった。確かに、死神である俺に依頼する内容かもしれないが、そもそもお前が消したい人間なんて俺が動く必要がないだろ」
「それで?」
「考えられるパターンは6通りあったが、その中でも確率が高いのは二つ。一つは自分自身の暗殺。もう一つは、自分と同じくらいの影響力を持つ権力者を殺すことだ。この二つの可能性が非常に高かったが、ウォーロットは正体を知られていないのに、裏社会を支配している天才だぞ?そんな人間が、表で活躍している天才の暗殺依頼をしてくるのは聊かおかしいだろ」
瀬名はこの依頼のことを最初から信用していなかった。サツキも少し疑問に感じるところはあったようだが、ここまで辿り着いていたかどうかは確認していない。
今回シャーロットをお供として連れてきた本当の理由は、彼女であれば気が付いても邪魔をしないからである。現に今も、サポートとして此処に来ていないし、依頼があったように毛利の監視をしているはずだ。
「だが、それだけで私が同一人物だと仮定することはできても、結論付けするのは無理がある話だ。実際に、ここに来るまで君は私が同一人物であるという確証はなかったのだろう?」
「ああ、確証はなかったがこの通路を見つけて部屋に入った時にはある程度決まったがな。お前と同じくらいの危険人物であるのなら、こんな隠し部屋があるとは思わないし、そもそも隠し部屋の中でホログラムが生活している意味が分からん。わざわざ生活感のある部屋づくりまで行って、何の意味があるのか」
淡々と自分が感じた感想を羅列していく瀬名だが、初手で確信していたという感想にはホログラムの老人も驚いてか完全に表情が抜け落ちた。
「そもそも、どうやってあの通路を見つけたんだ?完璧に絵画で隠されていたハズだが?」
「絵画の位置が明らかにおかしかったし、それに絵画を飾っているだけのスペースなのに人員が多いからな」
「あの場所の護衛人数は少なかったはずだが?」
「全体で見た時だ。どう考えても、絵画のあった場所周辺は警備が薄いのに、その前で警備が分厚かった。分厚いだけじゃなくて、警備が油断もしていた。警備自体、なんであそこに自分が配置されているのか正しく理解していなかった。つまり、警備にも知らされていない秘密があるんでしょ」
警備の人数、そこにいる警備の意識度合い。警備の熟練度、すべてを把握したうえで、瀬名は過剰警備であると判断した。
過剰警備を超えた後には、大きな意味深な絵画が設置されている。それはもう、不自然で仕方ない。
「なるほど、通路は確信をもって通ってきたのか。なら、これ以上文句はないな」
「それで、今回俺が行うのはこのホログラム装置の破壊か?」
「そこまで気が付くのはすごいな」
「簡単だろ。というか、それ以上になんでレナ・オーガスト何て名前を使ったのかが謎なんだよな。こっちに違和感を持たせるだけなら、ビッグネームすぎるだろ」
「なんだ、それなら簡単だぞ?闇の天才である私と、光の天才である彼女。ともに、天才であるという所が共通点だからな。そこで、把握できるだろ?」
「それは、ちょっと無理があるだろ」
闇の天才と光の天才を掛け合わせただけで、気が付けるかと言われたら完璧に無理だ。推理に使用したのは、すべて場面情報と自分の違和感。
直観に近いそれだが、これまで自分が生き残れてきた要因でもあるそれを、瀬名は無視することができなかった。
「君は完全に私の目的も正体も言い当ててくれたが、疑問は?」
「一つだけ。お前の正体をまだ聞いてない」
「ん?私の正体は君が言い当てたじゃないか?」
「いいや、違うだろう?お前は、ただのプログラムだ。何の実験をした時のなれの果てなんだ?」
「ほう?そこまで気が付くことができるのか?」
プログラム。目の前にある映像はただのプログラムでしかなく、データ列であるという。確かにホログラムであるため、プログラムといえば当たり前だが、ここでいうプログラムというのはそういう意味ではない。
「なぜお前が脳のバックアップを取ることになったんだ?というか、なぜ死んでまでそうした?」
「ふむ、君は私が想像してたよりも数段頭が切れるようだな」
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