第42話 暗殺実行
「さて、もう聞くことも亡くなったし死んでもらってもいいよな?」
「頭が切れるだけではなく、行動も早いと来たか。これは、困るな」
言いながら、老人は大げさにため息を吐く。その姿を見ることすらなく、瀬名はキョロキョロと周囲を見渡すと一点で視線を固定した。
瀬名の視線の先には、壁という名のホログラム映像があるのみだが、目を細めてジッと見つめていた。
「なぜおまえはそこで視線を固定している?」
「いやなに、お前の命を終わらせる必要があるからな」
淡々と答えながら、瀬名は一度ナイフに手をかけてから思いっきり地面を踏みしめて、床を破壊した。
「おい、何をするつもりだ」
「ん?だから言ってるでしょ?もう話すつもりないんだって。お前が殺害対象で、殺すためにはお前の全部のデータを削除するしかない。なら、そのデータの大本をさっさと破壊してしまうのがいいでしょ。どうせお前が最後なんだろ?」
「た、確かにそうではあるが」
「ならいいでしょ」
砕けた地面の破片を、部屋の一角めがけて投げつける。当然ホログラムで作成されたそれは透過した。
しかし、その石はそのままホログラムの先にある何かに衝突して、何かを割る音が響き渡った。
少し遅れてバイバチィッという、何かが弾ける音が聞こえた次の瞬間、ドンッ!という額発音が響き渡った。
「おお、ちゃんと爆発してくれたようで安心だね」
「貴様、本気でやりおったな......」
声こそ荒げないものの、老人は怒りを隠すそぶりもなくあらわにする。両手を握りしめて震わせる様は、もしここに実態があれば瀬名を切り殺さんばかりの勢いだった。
「なんでそんなに怒ってるんだよ。どうせ殺すんだから、早いか遅いかの違いだろ?」
「ちっ!」
焦った様子で騒ぐホログラムを放置して、瀬名は淡々と石を投げつけていく。一石投じるたびに何かが壊れる音がするが、目の前のホログラムは消えることなく起動し続けている。
「さて、投げつける石もなくなったしどうしようか。乗り込むしかないのか?」
「くそっ、面倒なことをしおって。私の依頼内容をすべて把握したうえで、なぜこのような方法をとる!」
ホログラムを何とか維持しながら、声を荒げて尋ねる老人に対して、瀬名はどこまでも落ち着いた様子で答えた。
「だって、俺がお前を所持し続けるほうがリスク高いだろ。今回の以来の本質は、この場所からお前を消すこと。すでに電子データと化したお前に対して、殺すという手段を用いることができない。であれば、ここから持ち出して、市場で使うことになるがそんなことをしたら、貴様がネットワークをめちゃくちゃにするだろ?それは面倒なんだ」
大きなため息をつきながら、頭を抱える瀬名。
「だから、依頼通りこの場所で殺す。その電子データをすべて削除すればいい。基幹システムがここにあることは、お前の反応から想像できる。今石ころを投げつけて適当に壊してみたが、当たりは無さそうだな。だが、このホログラムの奥に、お前の本体はあるはずだから.........なっ!」
「貴様、ふざ......」
老人が言い切るよりも先に、瀬名が機械を切り裂くほうが一歩早かった。最後の言葉すらまともに話すことができない状態で、ホログラムは機能を停止。そのまましばしの間だけ、間抜けな姿が投影されていたが数秒したのちに、全てのホログラムとともに姿を消した。
「ふぅ、これで完了だな」
最後に、無残に破壊された機械の数々を集めて粉々に踏み砕いて瀬名の仕事は完了した。
今回、瀬名がウォーロットから依頼されたのは「レナ・オーガストの暗殺依頼」であった。しかし、裏のボスも兼ねているウォーロットが表の光輝く天才を無理に殺すような依頼を投げてくる理由がない。
つまり、何かしらの異常事態が発生していると踏んで瀬名は捜索をしていたのだが、先日のシャーロットとアンの報告からウォーロットがすでに何者かによって殺されている可能性が浮上した。「毛利」という、誰も聞いたことがない男が、ウォーロットの居城を支配しているのだから当たり前だ。
となれば、後は単純にウォーロットがどうなっているのか隠し部屋を探し続けるゲームで、結果ウォーロットは自分の脳みそを電子世界に登録することで生き延びていた。
「つまり、レナ・オーガストを殺さないといけなかったのは自分の依り代にするためか。そんな成功するかも分からないことのために、希望の光を殺すわけにはいかないだろ」
死んだ人間、または生きている人間への、人格移植。そんなバカげた目的のために、危険を犯す必要なんてなかった。
最後に、自分がいた痕跡とウォーロットのバックアップの痕跡を完全に削除してから、瀬名は隠し部屋を後にするのだった。
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