第24話 ターゲットを探せ

「瀬名様瀬名様!手っ取り早く拷問してみましたが、ボスの居場所は把握していないみたいっ!!側近にしかその居場所を教えていなくて、徹底的に隠れてるんだって!」


 生首片手に、シャーロットはまるで子犬が主人にご褒美を求めるかのように興奮した様子で瀬名に迫った。生首だけでもグロデスクな現場だが、その足元には事切れた死体が複数転がっており、どの遺体も全身傷まみれで足場は血まみれ。付着した血が固まる前に新しい血が上から降り注ぐから、永遠に固まることなくグチョグチョの血が靴に付着する。


「ふーん、それは少し困ったね。でも、誰もボスの顔を知らないんだ」

「そうみたい」


 近寄ってきたシャーロットの頭を撫でながら、少し間天井を見上げる。シャーロットは雑に撫でられているにも関わらず、顔を緩めその感触を楽しんだ。さっきまで人間を拷問していたとは思えない、年頃の少女の笑みである。


「うーん、20人ぐらい殺しているからそろそろ何か問題になると思ったけど何も起きないしなぁ。しかも、こいつらが着ている服装もマチマチで個人差があるよね」

「あっ!そのことなんですがボスは一人だけど、このメンバーを管理している人間が三人いて、そいつらを捕まえることができればボスの顔がわかるかもって!」

「なるほど、じゃあその管理者を探せばいいのか」


 思い出したかのようにいうシャーロットに、瀬名は冷静に自分の頭の中で情報を処理していく。シャーロットの頭をなでることはやめる事無く、シャーロットもその感触を享受できるうちは全力で堪能する気だった。


 もしもここで瀬名がシャーロットの相手をしていなかったら、スグサマこの場を飛び出してシャーロットは皆殺しショーを開催していただろう。


「ねぇ、シャーロット?」

「なに?瀬名様」

「手っ取り早く処理するなら、その三人を探し出すついでに、皆殺しにしつつ拷問して情報を抜き出すのが早いよね?でも、その三人を皆殺しにすると誰もこの避難民を誘導できなくなる問題が生じるんだよ」

「じゃあ、一人だけ生き残りを作って傀儡にすればいいんだよ!そうすれば、きっとうまくいくよ」


 瀬名の疑問を理解しているのかしていないのか。シャーロットは深く考えることなく、しかし瀬名の持つ疑問には精一杯考えて回答をした。

 瀬名もその事実を知っているからこそ、「うーん、そうなんだけどなぁ」とぼやく事はするが、それ以上何か要求することはなかった。その様子を見て、シャーロットはこみ上げてくる何かを抑え込んだ。気が付かないふりをしていたそれに、再度蓋をしていつも通りの元気のよい笑顔を浮かべる。


 シャーロットは自分に頭脳面での活躍を期待されていないことを自覚している。


 いつものことだし、自分には二人のように頭がよくないことも自覚していた。しかし、こうして期待されていないことを目の当たりにすると、やはり悲しいものは悲しいのだ。


 だから今日も、道化を演じながら求められる役割を全うする。これが自分のやるべきことだと信じて。


「傀儡にしても、僕はシャーロットたち以外には部下は必要ないんだよね」

「じゃあ、都市内部のお偉いさんに売っちゃえばいいんじゃないの?しばらくは生きていくのに必要なお金は手に入るよ?」

「なるほど、城塞都市の人間を利用してみるのも一個の手段か」


 瀬名の頭の中にはすでに三人を皆殺しにするプランが構築されていた。少々強引な手段だが、ここにはシャーロットがいることもあり、作戦実行には大きな障害は感じられなかった。


 瀬名からしても確かにシャーロットは他二人と比べると少しだけ知識面で、判断面では劣る。それが浮き彫りになっていることは、瀬名自身自覚しているがそのことを問題だとは思っていなかった。

 確かにシャーロットは短絡的な行動をするし、感情的なところがあることも認める。でも、それは比較対象がよくないだけで、世間一般では十分秀才と呼べる域にはあった。戦闘に関しては他二人とは一線を越えるものを持っているので、シャーロットのことは、本人が自覚している以上に瀬名は頼りにしているのである。


「まぁ、すでにこれだけ人間を殺してるんだし今更だよね。よし、一先ず一番近くにいるその支配者を探してみようか。三人いるみたいだけど、だれか居場所が判明しているの?」

「そーだなぁ、居場所は誰も判明していないのが現状かなぁ。でも、また適当に人間を捕まえて拷問すればいいんじゃないかな?」


 人を拷問してこの地獄絵図を再現することに対して、何一つ精神的な問題を感じることはなく容易に繰り返して見せると宣言する。シャーロットからすれば、等しく価値のない人間であるため気にする必要もないだけだった。

 瀬名からしてもそれは同じことだが、一歩先を見据えた瀬名はシャーロットが早速動こうとしているその足をつかんで、止めるのだった。


「ちょっと待て」

「キャッ!」


 飛び出そうとしたシャーロットは勢いよくそのまま地面にダイブした。顔面からきれいに。


「もうっ、何をするんですか!」

「すまない、でもここで殺戮を繰り返し続けることはさすがに認められない。理由は単純で、ここで人を殺し続けても戦力が無駄に減るだけなんだよね。あんまり殺されすぎると、機械兵を殺してくれる戦力が不足するでしょ?」

「なるほどぉ~~!!」


 ウンウンと大きくうなずくシャーロットに、満足そうに頷くと瀬名は手早く三つだけ指示を出した。その命令に対して、一切の質問も疑問も抱くことなく頷いたシャーロットは、一瞬で姿を消すと行動に移すのだった。



「さて、下準備はこれで十分だな。後は適切に殺して、生きる人間の選別をするだけだな」



 薄暗い館の一角で、瀬名は不穏な雰囲気を漂わせながら一人つぶやくのだった。

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