第23話 必要なのは覚悟

「機械兵を倒していくには、的確に弱点を突き続ける必要がある。それに、休むことなく常に襲い掛かってくる相手に対して私たちは休息が必要だ。最前線には、戦いができる人間を継続的に配置して、長期戦も視野に入れる必要があることも忘れるな。機械兵を倒す速度も重要ですから、練度の高い人間をひたすらに配置しないといけない。防衛線を敷くのは当たり前として、補給の方法も考えることも必要。武器がどの程度でダメになるのかが、未知数なことも大きな問題なんだよ」

「そもそも、スラムの人間と城塞都市内部にいる人間が協力して戦うことができるんですかね?」

「必要なら、戦線を分ければ戦うこともできますから大丈夫でしょう」


 会議は淡々と進んでいく。セタンタがざっくりと概要をまとめあげて、それに対してレナとアンが少しづつ足していく形で、必要なことの洗い出しは一瞬で完了した。


「さて、問題はこの課題を乗り越えていく方法を考えないといけないんだよねぇ~」

「実現できるところから始めていきましょう。まずは防衛線を敷く位置を決めて、その後に補給線を確定させないといけないですからね」


少しだけ諦めムードを醸し出すアンの配慮を完全に無視して、レナが鋭い視線を向けて話を戻す。

 ピリついた空気は流れていないにもかかわらず、妙な緊張感がこの場を支配していた。


「防衛線を敷く場所は、スラム街から2kmの位置にしましょう。ここであれば、ギリギリですが防衛線を敷いても城塞都市の防衛機能を使用して守備することができます」

「なるほど、では機械兵がその方向から訪れるように誘導しておく必要がありますね」

「まぁ、誘導に関しては問題なく行えるのでいい。問題は、敵には感情がないことによる、タイムラグだ」


 機械兵は人間を殺すためだけに行動している。基本的には、熱探知を使い周辺に存在する生命体を確認し、周囲の振動を広い、カメラにより確認してから確実に仕留める。機械兵同士は、お互いに通信を行うことで、味方を識別している。仮に生命体反応がなくても、同じ機械の体を持っていても、通信が確立されなければ敵として認識するようにプログラムが行われている。


 機械兵を誘導するのは、このアルゴリズムを逆手に取ることで簡単に行うことができる。生命体の反応を偽造するなり、スラム街の足の速いものを利用しておびき出せばいいのだから。


 問題は機械兵の感情がない行動だ。味方であるという認識をしたうえで、同士討ちは必要なら、一瞬の判断で行ってくる。動けなくなった個体を爆殺することで、敵を殲滅できる状況であれば、一瞬のタイムラグもなく判断し見方を見捨てる決断をする。


 この一瞬の判断を容赦なく行えるから、敵を盾にして……なんて人間に取れる作戦は通用しないのだ。


「感情がないことが問題なのですか?」

「機械兵たちはとにかく人間を殺すことしか考えていないことは知っているよな?」

「ええ、昔の戦争のときに人間を殺すために作られた兵器が暴走しただけですから」

「相手をどれだけ分析しても中身が判明しない構造になっているのが問題なんだ。こちらが知っている情報は、人間を殺すことに特化しているということ。相手の攻撃方法が、頭についている機関銃と、側面から出てくる剣があること。あとは、その四本の足で潰したり刺したり、いろんな方法で殺しをやってくるくらいだ」


 攻撃は単調であるから、よけることも問題ないし攻略自体はできる。一方で、敵の情報をしっかりと把握できないことはイレギュラーを生み出す可能性があるということを忘れてはならないという、セタンタなりの注意であった。


「まぁ、こちらを的確に殺しに来ることが分かっているので、セタンタさんの言うように対処はできますね」

「ただ、感情がないことは何が問題なのですか?」


 レナはいまいち理解できないといったように、再度その点を質問した。こればかりは戦場を経験した有無でしかないので、馬鹿にしたりすることなくセタンタがノータイムで答えた。


「目の前でさっきまで仲良く話していた知人が胴体おさらばしても、冷静でいられますか?」

「それが自分の恋人だったら?」

「自分の指揮下で死ねと命じた部下が、泣きながら懇願してきたら?」

「目の前で助けられるはずだった命が、無残に殺されたら?ただ殺されるだけなら耐えられても、それがおもちゃで遊ぶように切り刻まれた後、微かに残ったその生命の息吹で、自分に助けを求められたとき、冷静に、残酷に見捨てることは?」

「機械兵に血がこびりつき、真新しい血を踊るように巻き散らしながら襲ってきても?仮に相手の足先に、人間の体がゴミのように積み重なっている状況でも?」

「なっ!?」


 想像もしたことないような状況。人間の尊厳も命の価値も、そのすべてが意味を成さない環境。あるのは勝利か敗北かの二択。そこに、どれほどの命が奪われるかも関係ない。相手は機械兵で、無限に生成され続ける。

 誰か一人でも生き残れば勝ち。その一人はだれでもよくて、どれほどの資産を築こうとも、戦争が始まってしまえば関係ない。


「目の前でどんな命も見据すて、常に自分の命をベットしながらその魂を燃やし尽くす。その覚悟がなければ、戦場に立つ資格はありません。この場内で生きている安っぽい人間に、その覚悟はありますか、レナ様」


 感情のない化け物と戦争をする為に必要なのは、これだけ。人間であることを捨てる覚悟はあるのか。


 レナはまた一つ大きな壁を目にすることになる。

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