第22話 新作戦会議
レナがアンに案内された部屋に入ると、すぐに大きな会議用テーブルが目についた。木で作られたそのテーブルは、一見するとかなり質素なつくりになっているが注目してみると細部の作りこみが段違いであることに気が付く。
テーブルの角をすべて落としてあることはもちろん、大きさが故に目を引いてしまうが部屋の雰囲気を固くしないように、自己主張は抑え目。というか、視界に入ってもそれがすぐに馴染むようになっていて、最初こそ目を引くが「あって当たり前」と思わせる。机の高さも、そして取り付けられている引き出しも、場所、サイズが非常に良い。
家に欲しいな、なんて場違いなことをレナは考えてしまうが、それも仕方ないことだった。たった机一つだったが、それほどまでにレナの興味を引いたのだった。
「机一つでそこまで大きな反応をする人はめずらしいですね」
「何を言っているのですっ!誰もがたかが机と馬鹿にしますが、机がしっかりしていなければ、自分の作業に集中できないではありませんか。私は昇降式の机こそ万能だと思っていましたが、なるほど。このサイズ感であれば、個人的なり理想値にもだいぶ近いですね」
「ふふっ、天才って本当に価値観が違うんですね」
アンは発案者は自分ではないと豪語する。その発言と、意味深な視線を受けてその視線を追いながらその意味を考えていると、一人の男?が部屋の中にいることに気が付く。
「えっ?」
思わずといったようにレナが驚きの声を上げているのだが、それをアンは無視してカツカツとヒールの音を鳴らしながら進んでいく。その、およそ男性と思われる所まで歩いていくと、パッと両手を広げて大げさに紹介をするのだった。
「さて、こちらの方が今回の協力者です」
「あの、本気で言ってますか?」
「ええ、本気ですよ?」
レナが思わずといった様子で質問をするが、その疑問は当然であった。アンとしてもここで突っ込みがなければどうしようと思っていた所はあるので、正直助かった。
その協力者である男性は、全身をボロボロのローブに身を包み、顔は髑髏の黒い仮面をしていた。仮面は完全に顔を覆ってしまっており、その表情を伺うことは無理であった。
これから身命を賭して戦うというのに、一切の素性を明かす気がない様子に困惑した。今日は驚いてばかりだなと少し苦笑を浮かべると、レナはそれまでの動揺を隠すように人当たりの良い笑みを浮かべて右手を差し出した。
「初めまして、レナ・オーガストと申します。これからよろしくお願いいたします」
「セタンタという。よろしく頼む」
「ええ、よろしくお願いします」
差し出された右手を、これまた真っ黒なグローブをした手でしっかりと握り返すと男――セタンタは、とても低い声で返答した。
しかし、今のご時世声だけで人間の性別を判断するのは本当に難しい。ボイスチェンジャーを使えば誰だって夢の音声を手に入れることができるのだから。
「すまない、この声は地声なのだがこの見た目も相まってよく相手を緊張させてしまうようだ」
「ああ、いえ。私が驚いたのが悪いだけなので、気にしないで下さい。むしろ、私のほうこそ謝罪するべきです。申し訳ありません」
「本当に気にしないでくれ。こちらも気にしないから」
「ありがとうございます」
レナのわずかな変化を見逃さなかったセタンタ相手に、レナに再度緊張が走った。アンなら気が付いても仕方ないと思えるような変化ではあったが、こうも簡単に見破られるほど、レナの顔は薄くない。
「ほんと、世の中には思わぬ才能が埋もれているものですね」
「それを発掘する気があるかどうかですよ。結局、守りに入ったらすぐに死んでしまう。私たちはそういう環境で生きてきたんです」
「お二人は、昔から友人だったのですね」
「ああ、もう10年近い付き合いになるな」
その会話だけで、アンの成功の裏にはこのセタンタという男が関与していることを本能的にレナは察した。自分をしても、圧倒的な才覚を感じるアン相手に、知略面でのことを全部任されているというのだ。つまり、自分よりも上にいると思って間違いはないだろう。
「ここまで心強い味方がいるとは、うれしいことです」
「こちらこそ、この町を守るために全力を尽くそう」
「よろしくお願いします」
「では、さっそく会議を始めましょうか。時間もないですし、何より考えないといけないことは山のようにありますからね」
「どうだな、さっそく始めよう」
挨拶はこれ以上は不要だろうと、アンはさっそく資料を取り出して準備を行う。セタンタは取り出された資料を、サッと確認していきながら、いつの間にか取り出した白紙の用紙に雑に何かを書き始めた。
そんな二人の様子を見て、心強く感じるとともに自分も足手まといになる訳にはいかないと、今一度気を引き締めなおす。レナは、若干遅れながら二人の作戦会議に参加するのであった。
「行動が遅いぞ、早く見ろ」
「そうですよ、レナ様。急がないと」
「はいっ!すみませんでした」
頼もしい仲間を前に、怒られている状況でも嬉しそうに返事をするレナに、当の二人は少し困惑するのだった。
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