第20話 計画

「それで瀬名様どうやって殺すんですか?」

「うーん、というかそもそも誰を殺せばいいのかあいまいなところはあるんだよね」

「そうなの?みんな殺すんじゃないの?」


 本人と間違えて殺されたら堪ったものではない。しかし、瀬名の言う通りこの二人が真に殺さないといけない人物の把握が終わっていないことも事実だった。

 本来であれば容易に探せるはずだが、今のここは避難施設。対象人物が多すぎて、手掛かりなしで攻め込むわけにもいかなかった。


「うーん、それは最終手段かな。というか、この人数を皆殺しするのは結構面倒だと思うよ?」

「でも瀬名様と二人なら余裕でしょ」

「まぁ、そうだけどさ」


 単純に誰も逃さずに殺すだけであれば、瀬名単体でも可能。そこにシャーロットが加わるのであればある程度雑に殺しても可能だろう。そもそも、ここはシェルターのようなものなので、出入り口にシャーロットを配置してしまえば、よほどのことがない限り確殺できる。


 しかし瀬名はそれらすべてを分かったうえで、悩まし気な声を上げた。


「大量殺人をしてもいいんだけど、今回はいらないんだよなぁ」

「そうなんだ」

「うーん、今この館には300~450人くらいの人が集まっているらしいんだよ。で、そのうち100人が運営側だ。で、その中には残念ながら敵の本丸が含まれていないんだよね。どっかに隠れてるから、あぶり出さないといけないんだよ」


 敵の本丸、つまり確実に殺さなければならない対象のことなのだが、瀬名たちはまだその人物に遭遇すらしていないかった。

 その存在を確認しなければ、殺すこともできないのに。暗殺任務で一番大変なのは、ターゲットに遭遇するまでだった。


「殺しの対象がまだ確認できてないんだ。珍しいね、瀬名様」

「うーん、目星はついているんだけどね。こうして乗り込んでみたけど、やっぱり簡単には見つかりそうにないね」


 周囲の人間にばれない程度に周囲を見渡していた瀬名だが、その成果は芳しくない。

 万が一避難民の中に隠れていたらと思たったが、思うように敵も姿を見せてはくれないものだ。


「一般人に紛れ込んでる可能性は?」

「シャーロット、そんな人間を見つけられた?」

「うーん、私が確認した中ではいなかったかなぁ」

「だろ?」


  暗殺対象を確認していないことも問題だが、動きが制限されていることも多少気になるところではあった。実は、瀬名の本来の予定ではシャーロットにこうして説明している時には、ある程度暗殺対象の確認を終えて、すでに実行計画が立っているはずだったのだ。


 計画が大幅に遅れていることに、心の中で大きく舌打ちをしながら瀬名はシャーロットに一つだけ指示をした。


「計画を立てることすらできてないから、ひとまずシャーロットの方でも殺し方を考えておいてほしいんだ」

「なるほどねっ、わかったよ瀬名様!それで、暗殺対象は誰なの?」

「レナ・オーガスト……稀代の天才様らしいよ」

「へぇー」


 にやりと、シャーロットは楽しそうに笑うのであった。










「今回は助けていただきありがとうございました」


 レナは、自室に案内したアンに向かってきれいにお辞儀して感謝の意を示すのだった。礼をしているのは麗奈一人ではなく、周りにいるメイドや執事たちも同様であった。


「頭を上げてください。これは、私たちの責務なんですから、気にしないでください。私では、街を守ることができないですが、皆さんは戦えるじゃないですか」


 左手で自分の体を抱くアンだが、そのしぐさを見ているレナは少し眉を顰めた。

 アンの肢体はその抜群のプロポーションが故に気が付かれることはまれだが、スカートのスリットから覗く足も、露出されている腕も、全くと言っていいほど余分な脂肪はなかった。むしろ、見えているのは探偵学院の生徒なんかよりもよっぽど鍛え上げられており、レナからしても戦闘になれば脅威であると思わせる。


 最も、自分が負ける姿は想像ができないが。ただ、彼女レベルの相手をしながら少しでも邪魔が入ると一気に形勢が逆転する可能性があるとレナは考えていた。


「そうですか………」

「………なるほど、その反応は私のことがわかるのですね」


 アンとて一流の商人である。多少の手伝いと運と多少強引な手を利用しているとはいえ、その才能をいかんなく発揮してこの地位を得ている。レナの反応から、自分がある程度の戦闘ができる人間であることがバレたことを察することは造作もなかった。


「どうしてわかるのですか?」

「私は商人ですよ?顧客の顔色を読んで何を考えて、何を欲しているのかを予想する。そして相手が取引できるぎりぎりの金額を見極めるのが私たちの仕事です。天才とも呼ばれているあなたでも、私の仕事は変わりませんよ」


 驚愕に目を見開いているレナを目の前に、アンは冷静に対処するのであった。レナとしては自分の心の内側を読まれたことは想定外の出来事であったし、驚愕をここまで明らかにしてしまった事も問題だった。


 しかし、アンの対応は何一つ変わることはなかった。自分の仕事を淡々と機械的にこなすだけ。


「さて、レナ様。私たちの仕事はここから始まるんですよ。私が戦う必要がないように、しっかりと準備して対策していきましょう」

「あなたには勝てそうにありませんね」

「味方なのに、なぜそうなるのです?」

「ふふっ、すみません。私が絶対に勝てないと感じた人は、貴女で三人目ですからね。うれしくて舞い上がってしまいました」


 目の前に現れた自分とは全く違うタイプの才能に、その磨き上げられたセンスに、レナは素直に勝てないと思ったのであった。


 そして同時にレナは獰猛な笑みを浮かべた。淑女らしからぬ、戦闘意欲をむき出しにした、敵意をこれでもかと表現した笑みを浮かべるのだった。


「ふふっ、レナ様もいい表情ができるじゃないですか」

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