第19話 避難する意味
「そういえば瀬名様」
「どうした?」
「なんで私たち避難してるの?」
シャーロットは、非難が完了して一通り普段は侵入できない場所を探索して、一通りいい汗をかいてからの瀬名に質問。いつも通り過ぎる行動と、あまりに場違いな質問。
思わず天を仰ぎそうになる瀬名だったが、先にシャーロットが言葉をつづけた。
「こうして私たちの存在を認知させることで、私と瀬名様がここにいることは認知させられるじゃないですか。でも、私も瀬名様も自分の稼ぎで、城塞都市内に住むことできるでしょ?その場合、適当な仕事をする必要があるけど、どうせ表向き何かしないといけないじゃない?だったら、別にわざわざ私たちが生きていることを、存在していることを知らせるほうが大きなデメリットじゃないかな?」
「なるほどね」
シャーロットが言いたいことは確かにもっともだった。アンとサツキは、戸籍登録が行われており、今回はわざわざスラム側で参加する理由ない。だからこそ、ここにはいない。
二人とも僕と一緒に避難することを望んでいたが、アンもサツキも城塞都市内部に追いやったのだ。そもそも、こっちにいてもできる事なんて無いのだから。
シャーロットは中で何かしていることはないので、その存在は僕と同じで関係者と言伝で伝わっているだけ。時間がたてば忘れられるが、残念ながら今回のように記録を取られると、そのメリットも姿を消してしまう。
「避難していたからという口実で行動しやすくはなるけど、それって今だけじゃないの?」
「いつも適当な会話しかしないのに、こういう時に確信をついてくるからシャーロットは困るんだよなぁ。まぁ、確かにシャーロットのいう側面もあるよ」
言いながら瀬名はゆっくりと歩きだす。瀬名の向かう先には避難場所でも、ましてや武器弾薬が入れてある倉庫があるわけでもない。そのまま進んでも、壁があるだけだがそれに構わず瀬名は歩き続ける。
「瀬名様?」
「意味があるかどうかと言われれば、とても意味があるんだ。僕たちの存在が、闇側であるとはいえ知られてしまうのは問題だけど………」
瀬名は背中から四枚の用紙を取り出して、シャーロットに見せた。
「え?」
「びっくりでしょ?」
そこにあったのは、ここに入るときに記入した用紙と、その記入を後ろから見ていた人間が記入していた紙だった。
「どうやってその紙を?」
「え?殺してだけど?」
「さすがは瀬名様!」
あの行列、あの監視の中一体どうやって音もなく殺しを行い、誰にもばれずに紙を奪ったのか。死神である瀬名からすれば、造作もないことだ。
監視カメラを昨晩のうちにハッキングして、見張りの位置などはシャーロットとの会話の合間に盗み見をして。部屋に入れられてからは、状況勝負なところがあったが、部屋のサイズとドアの開閉の時に見た中の様子から、ある程度の予想はついていた。
生きる伝説、熟練の殺し屋である瀬名にとって、この程度朝飯前であった。
「ま、そんな訳でシャーロットの考えていた事態は避けられたんだけどね」
「でも、それこそなんでこんなことを?」
「いやー、実は一つ大きな仕事があってね。面倒だから、大量に行ってみようかなって」
「……」
あっけからんと宣言して見せる瀬名に、言葉を失ったように俯くシャーロット。その反応は、絶望でも諦念でもなく、歓喜だった。
肩を震わせ、太ももをこすり合わせて、上ずった声を、興奮した様子を隠すことなくシャーロットは心の声を叫ぶように瀬名に詰まった。
「ほ、本当に瀬名様が仕事をっ!?」
「そうだよ?最近はシャーロットに仕事をするところを見せてなかったね」
「そうですよっ!というか、また一人で仕事してるじゃないですか。それが今回は同行させてもらえるなんて、私感激ですっ!!見てください、嬉しくてさっきから体の震えが止まりませんっ!!」
両手で体を抱きしめて、怯えているのではないかと錯覚するほどに震えているシャーロットは、溜まらずその場にへたり込んでしまった。
そんなシャーロットの様子を見ながらも、表情一つ動かすことなく瀬名は淡々と今回の仕事の内容を説明する。
「今回の仕事は、この館の住人を全員殺すことなんだ。一人も逃がしたらダメで、効率的に大量殺人をしないといけない。ちなみに、館に住んでいる人間を殺すのが目的だからね?避難民は殺さないように注意してね。それと、大ボスが何処にいるのか探さないと………」
「あはっ!あはははっ!!瀬名様、それ本気で言ってるんですか?そんなに殺していいの?」
「そうだよ?」
高笑いをしながら確認をとるシャーロットのほうを、まるでつまらない石ころを見るような目で見ながら、瀬名は返答した。
「ああ、その目。その眼だけは、やめてくださいよっ!!抑えられなくなります」
「はぁ、何でもいいけどさ。今回の仕事は僕一人でやってもいいけど、シャーロットの実力を確認する作業も含めて一緒に出来たらなって思ったんだよ」
「いいですねっ!最高ですよっ!!隠れているヤツも全員引きずり出して、殺してみせるよっ!」
どこに殺しの話でここまで盛り上がることができる集団がいるのだろうか?スラムの人間でも、悪童でも、ここまではっきり殺人に何の感情を持たない人間がいるのだろうか?
逆に、大量虐殺の話を聞いてここまで興奮する人間がいるのだろうか?シャーロットの座っている場所は、乙女らしからず小さな水たまりが形成されていた。
「でも、無関係の人間を虐殺することを楽しんで本懐を忘れないでね?」
「じゃあ、まずは今盗み聞きしている人間の削除から始めないと」
シャーロットが微かに右手を挙げた瞬間、この世から三つの命が失われた。自分が死んだことを知覚することもなく、声を発することは許されず、激痛に苦悶の表情を浮かべ、白目をむき出しにした死体がそこにはあった。
「へぇ、ちゃんと気が付いて対策できたんだね」
「はいっ!」
「でも、廊下が血しぶきで大変なことになったね。これは掃除が大変そうだ」
「うぅ、頑張ろうっ!!」
「主にシャーロットがな」
噴水のように溢れだした血しぶきは、あたり一面を真っ赤に染め上げた。その血飛沫がやむ頃には、既に手遅れな事態へと発展し、掃除をするだけでこの日のエネルギーを使い果たすこととなるのだった。
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