第10話 暗殺任務

 太陽は完全に沈み、闇が世界を支配を始める。最初は人類も明かりを灯すことで抵抗していたが、日付をまたぐような時間になると殆どの人間は自分の家に帰り、ベッドの中で眠りにつく。

 それは、天才であるレナにとっても同じことだった。夜に行うことがないので、周囲の人よりも早く眠るという生活スタイルであった。


 この日、いつもと違うことがあるとすれば、ぐっすりと眠るレナの部屋に、侵入者が現れた事だった。


「ふぅ、侵入成功っと!」


 静かに眠るレナの隣に、その少女は舞い降りた。侵入者であるはずの彼女は、しかし場違いにハイテンションにその場で優雅にターンを決める。


「へぇー、大きな鏡があるとこうやって遊ぶのも面白いね!」


 早く仕事を開始すればいいのに、少女――シャーロットは巨大な姿見の前でポーズをとって遊んでいく。しばらくその遊びを続けて飽きたのか、今度はその腰元に携えた武器を抜き放った。


「さってと、お仕事しないとなぁ.......って、レナちゃんだ!」


 静かに誰にもばれないように侵入したにもかかわらず、少女は元気にはしゃぎ続けている。理由は言うまでもなく、暗殺の仕事ができるからだ。


 シャーロットは寝込んでいるレナのそばまで行くと、その寝顔を覗き込む。シャーロットははしゃいでいるが、それでも気配を殺すことを忘れることなく、隠密関係に関しては最重要項目で設定して行動していた。


「うーん、やっぱりレナちゃん美人だよなぁ。スタイルもいいし、うらやましい」


 その肢体を眺めて、シャーロットは少し気分が悪そうにそう言い放つ。シャーロット自身も美少女であり、だれもが二度見するような容姿をしている。しかし目の前で眠っているレナや、普段一緒にいる二人と比べると、残念ながら発育はよろしくなかった。


 シャーロットはレナから離れると、そのまま部屋を出るべくその扉をあけ放った。


「ごめんね、今回はレナちゃんは殺してあげられないの。サツキの作戦上は、標的以外を殺す必要がないからさ。だから、ごめんね。今度一緒に殺しあおうね」


 いまだ眠りについているレナに、本当に申し訳なさそうに謝罪したシャーロットは、さっと視線を切るとそのまま部屋を後にした。


 普通これだけ好き勝手すればだれか人の気配に気が付きそうなものだが、徹底的に訓練されているシャーロットには関係ない。テンション高めではあるが、ちゃんと小声で、足音は一切出さずに、布のこすれる音すらできるだけさせないようにしているのだ。


 結果、これだけ自由に行動しているにも関わらず、シャーロットの侵入に気が付く人間はいなかったのである。


「今日の標的はあなたの両親なんだ。ごめんなさいね」


 廊下を歩きながら、シャーロットは誰に言うでもなく、謝罪を口にするのだった。


 この日、この家では4つの死体が発見されることになる。二つはこの家で住み込みで働いている人間で、残りの二人は家主とその妻であった。

 家主と妻の遺体は、首を一太刀で切られ、そのうえで四肢を切り落とされていた。残虐ではあるが、この日発見された遺体としてはきれいなものであった。


 使用人の遺体は、無事であるとは言うことができなかった。

 一人は顔面が凹み、凡そ原型を保っているとは言い難い状況に。もう一人の遺体も、初めに喉が潰されて、その後全身を切り刻まれていた。死因は、殴打によるダメージと、失血死。


 およそ常人が行ったとは考えられないこの犯行に、多くの探偵と衛兵が戦慄し、統治層の人間は次は自分の番だと震えあがるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る