第110話
再び、飲めや歌えや踊れの騒ぎがはじまり出した頃に美しい音楽が流れ始める。
シラーは、予定外の出来事にルーに問いかけようとするが、ルーはルーで裏方の仕事が多いらしく、一向に姿を見せない。
それどころか、姿を見せたのは料理を作っていたはずの料理長マギーであった。
マギーは片手に盃を持ち、音楽に合わせて優雅に体をくねらせながら登場する。
「おい、あの舞は?」
副長ウイスが迎撃隊隊長ルイスに慎重に尋ねる。
「あれは、酔っ払った時のマギーの舞だ」
「いつの間に?」
「どうせ自分は料理で参加できない分、キッチンで飲んでいたんだろう」
「久しぶりに見るマギーの舞だ」
「ああ、死の舞、だ」
それを聞いてウイスが叫ぶ、
「誰か! マギーから盃を取り上げろ」
その叫びを聞いて、今度は砲術長のキストが叫ぶ、
「テーブルの上のフォークとナイフも隠すんだ」
皆が言われた通りにするが、泥酔状態の航海長ダフォーだけは、両端に座っている航海士に絡みながらキストの言うことなど聞いてはいない。
そこへマギーが滑り込み、ダフォーのフォークとナイフを取り上げると、フォークをキストに投げ入れる。
フォークはキストの胸に当たり、床に落ちる。
船内用の宇宙服を着ていなければ、フォークは間違いなくキストの胸に刺さっていたはずだ。
そしてマギーは、優雅に舞を続け空中へ飛んだかと思うと3回転し、見事に床に着地する。
更に、しなやかな舞の中に、カミソリで空を切ったような見事な突き蹴りが組み入れられている。
「気をつけろ! 死者が出るぞ!」
マギーは、そう言ったウイスの方を見ずに、ダフォーから奪っていたナイフを投げつける。
これも見事にウイスの胸に当たり、床に落ちる。
マギーの舞、死の舞、それは更に優雅さを増し、床で何回転もしたかと思うと、また宙に舞い上がり、1回転したかと思うと、床に着地して足を高く上げている。
そのつま先には、いつの間に飲み干したのであろうか、空の盃が乗っている。
マギーは、そののままの姿勢で跳躍すると、サッカーのオーバー・ヘッド・キックのように盃をシュートする。
その目にも止まらぬ速さの盃は船長の顔面へと飛んでいった。
クロウは、何気ない様子で、片方しか無い手で飛んできた盃を掴むと、その盃に手酌で酒を注ぎ、一息で飲み干すと、
「
と言って席を立った。
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