第109話



 食堂で、全乗組員が集まるのは不可能である。

地球での船で例えるなら大型旅客船舶の10倍以上はある宇宙船だが、迎撃機や輸送船、地上におりっ立った時に役立つ重機、科学技術班の工作室、食堂横にある食糧庫、各自の居室、必要最小限の作りになってはいるものの、一同が1箇所に集まれるような大きな場所は無い。


 ルーはテーブルに立て札を置いていく。

航海長ダフォーを主軸とする操舵班三名。

砲術長キストを中心とする砲術班五名。

迎撃隊員達に通信班。

科学技術班、などなど。

それぞれにひとつづつのテーブルがあてがわれる。


 艦橋では、今頃クロウが船長ではなく聖職者のようにマザーに語り掛けているであろう。

必然的に艦橋に残っているダフォーとウイスが立会人のような形になる。


「リー、ニーナ、君達は我々と共に戦い、絆も深くなったと思うが、喜びの時は少なかったと思う。片方が迎撃に出陣すれば、片方が残る。また時には両方が出陣した時もあった。その度に君たち二人は、自分のことではなく相手のことを心配してきたであろうと思う。済まない。それでも楽しい時間は少しくらいはあったと思う、そう思いたい。でも、君達は楽しいを選ばずに寂しいを選んで来た。それはどういう事だろう? 人と人との絆は相手への思いやりから始まるものだ。共に過ごして楽しいのは幸いだ。しかし、譬へ束の間であったとしても、離れることを寂しいと思えた人物を、互いに選び合えたのは更に幸いだ。そこには深い愛の絆が存在する。ルーナの祝福を、結婚おめでとう」


 クロウの言葉の後に、ダフォーとウイスが復唱する、


「ルーナの祝福を」


「さて、食堂に向かおう」


 クロウの後について、ニーナとリーが歩き出す。

その後にダフォーとウイスが続く。


 食堂に着くと、二人は盛大な歓迎を受けた。

用意された席に座れば、クロウが語り出す、


「言うべき言葉は、ルーナの前で神聖なるものとなり、受け入れられた。ここで皆に言う言葉は既に無い。我らに仲間が増えたことを、二人の仲間が結ばれたことを、共に祝福しよう。乾杯」


 

 飲んで食べての宴会となってきたところで、

指揮進撃役のシラーがみんなに語りかける、


「食堂にお集まりの皆様。ここで操舵班のダフォー航海長に祝辞を頂きたく思います」


 ダフォーが席を立つと、周りのざわめきが少しづつ小さくなってきた。

ダフォーは、おっほん、と咳払いをひとつする。


「おあたたまりの、皆の者。本日はおひらがやも良く、晴天なり。昨日今日に始まったわけでもない日にお越しのお二人には、よろこびとでお似合いと思いにけり・・・」


「おい、誰かダフォーを止めてやれ」


 小声で言ったのはウイスである。


「あれは地球の言葉のようで、文章になっていない」


 隣のテーブルに座っているルイスが応じる。


「かくしても、賑々しくするものは、祝いの座席であり、なんと麗しきシートにお座りのおふたるであろうか・・・」


 ウイスがシラーに目配せをする。

その合図をしっかりと受信したシラーが、


「誠にありがたいお祝辞のお言葉をいただき、ありがとうございました。ダフォー航海長、どうぞ御着席ください」


 ダフォーが、ふー、と息を吐きながら座った席の前には、すでに空になったボトルが一本倒れていた。


「おい、ウイス。ダフォーってあんなに酒を飲めたっけ?」


「いや、初めて見た」


 さらにダフォーは、隣に座っている操舵師に新たな酒を注がせようとしている。

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