第94話



 三人はスープを飲み終わると、別の飲み物に変えて談笑している。


「ところでさ、俺が君の食事を奪った時の事を思えているかい?」


「ああ、覚えているさ。僕が月の恩恵に感謝が足りないって話だろ」


「まさかあのルーが、このルーだったなんてな。今から考えると恥ずかしいよ」


「何それ、私の知らない話?」


「ニーナ、違うんだ。その後に君が現れたんだよ」


 三人が月での思い出話しをしている所へ二人の男が食堂に入って来る。


「よう、リーにニーナ、それと誰だっけかな? 確か自分から独房に入った・・・、えーと?」


「ルイス、勘弁してくれよ。ルーだよ」


「おう、そうだった、そうだった。やぁ、ルー君、独房から出てきた気持ちはどうだい?」


「ルイス、本当に勘弁してくれよ」


「隊長、その辺にしてあげてください」


 と横から声が聞こえる。


「なんだよ、そう言うお前は誰だよ」


「僕はシラーですよ」


「おうおう、そうか、君は迎撃機フォー3の若きパイロット、シラー君じゃないか」


 そこへ料理長のマギーがやって来る。


「あらー、あなたは、かの有名な迎撃隊隊長のルイスさんじゃありませんか。私は小さい頃からあなたのファンだったのですよ。私、お母様からあなたのお話をよく聞かされておりましたの。あなたのお母様が、小さいあなたを連れて、この食堂に来られました時。まぁ、お見事にお漏らしをなさったとのこと。そりゃもう大騒ぎ。あなたのお母様なんか・・・」


「のっぽのマギー、勘弁してくれよ、頼むよ」


「だったら、人の悪い冗談なんかやめて、ご注文をお願いしますわ」


 そう言われると、ルイスはシラーに席を指差し、自分は向かいの席に座る。


「発泡酒だ」


「もう切れているわ。次の熟成まで待ってちょうだい。それとも私が手製の発泡酒を今から作ってあげましょうか?」


「冗談じゃない」


 リーとニーナ、ルーは歯を噛み締めて笑いを堪えている。


「それじゃ、別の酒をくれ、えーと」


「それじゃ、トルストイ、ドフトエフスキー、プーシキン、は如何かしら」


「いや、そんなきつい酒は要らないんだ」


「そうね、もう十分に酔っ払っていらっしゃるご様子ですもの。では、カフカ、ロラン、シラー、トーマスにテオドール、ゲーテにヘッセ、まだまだありますけど?」


「聞いているだけで頭がくらくらしてきたよ」


「あらそうなのですね。それなら弱い目のアルコールで、宇宙葡萄のお酒なんか如何かしら。えーと、スタンダール(私利私欲の修道院)、ゾラ(気まぐれ子猫)、サンデグジュペリ(星の飛行機雲)、サガン(眩しい太陽)にカミュ(人間愛)、ツルゲーネフ(実らぬ恋)、変わったところではボードレール(散文酒)、それとアポリネール(これぞアルコール)など如何かしら?」


「いや、あなたのご親切に感謝いたします。今日のところは、地球からの、ほら、あの、珈琲ってやつをもらうことにするよ」


「あらー、最初からそう言ってくださればよかったのにー。隊長ったらぁ」


 そこへ船内放送が響く。

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