第86話



 月より遥彼方で宇宙船が停船している。


「おい、クロウ、こう何回も吹き飛ばされたら宇宙船じゃなくて俺たちが保たないぜ」


 副長のウイスが苦虫を噛み潰したような顔で言う。

その言葉を無視して航海長のダフォーがクロウに指示を仰ぐ、


「で、どうするの? クロウ?」


「もう一度月へ向かう」


「とんでもないぜ、また吹っ飛ばされに行くのかよ」


 ウイスの言葉に応じてクロウが言う、


「いや、迎撃隊の回収だ」


「どう言うことなの?」


 今度はダフォーの言葉に応じてクロウが言う、


「もう吹き飛ばされる心配はない、って言うことだ」


「それって奴らを叩きのめす? ってことかい?」


 またもや、ウイスの言葉に応えてクロウが言う、


「いや、違う。もうレプトン砲は無い、発艦する前にルイスに指示を出しておいた。レプトン砲のみを潰せ、と」


「なるほど分かったぜ、レプトンを溜め込んだ砲台をレプトンで砲撃したらとんでもない爆発が起こる。しかし、レプトンを放った後なら充填器は空っぽだ。そこをルイス達に破壊させる」


「あら、ウイス。今日はやけに頭の回転が良いじゃない」


「何だよダフォー、俺の頭は肝心な時のために休ませているって訳さ」


「月へ」


 クロウが指示を出す。


「で、月へ行って何をしようって言うんだい? 迎撃機の回収だけではないと思うんだがね」


 言ったのはウイスだ。


「警告だ、戦闘の無意味さを教える」


「了解、再度、月へ航路を取ります」


 ダフォーの声に艦橋に残された全乗組員が頷いたように見えた。

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