第87話



 月面は静かな湖のようだった。

風のない水面の上を飛行船が漂うように海賊船が微速前進している。

ドームの中には月の戦闘機、警備艇が格納庫に入れられずに並んでいる。

また、ドームの外ではクロウ海賊船迎撃機が寸分違わずに美しく整列していた。

クロウ船長は、着艦命令を下すと、各迎撃機が順良く離陸し、海賊船を目指す。

最早、月には闘う術がない。

月総督ドローは作戦会議室で両腕を机の上で組み、項垂れている。


 海賊船は全ての迎撃機を格納すると、最後の警告を発する。


 クロウは、通信士に声を掛ける、


「素粒子回線を開いてくれ、月移住民全てに伝えたい」


「了解、素粒子回線を開きます」


 続いてレイがクロウに報告する、


「クロウ、素粒子回線を開きました」


「ありがとう、レイ」


 そう言うとクロウは艦橋にある船長席から声を掛ける、


「月に住む民、全てに伝える。私は、当船船長のクロウ。戦いは終わった。この星で生活を営んでいる全ての移住民に被害が及ばなかったことに安堵している。この星では、一部の利権者の欲望で、地球植民地計画が進んでいた。証拠は君たちの星に見慣れない大きな砲台が秘密裏に建設されていたこと、戦闘機が飛ぶことで君たちの知らないうちに攻撃隊が復活したことで分かると思う。平和を望む全ての民へ、君たちの願いは夢ではない。その思いを大切にし続けていてほしい。そして侵略を計画した者達へ告ぐ、私たちは誰の味方でもない。侵略される側に立つだけだ。もしも、君たちが再び武器を集め出し、それを防衛の手段として使うのではなく、此度のように侵略の道具として使う時、私たちは君たちの敵として現れ、侵略を阻止するであろう。心優しき月の移住民達よ、その心を永遠に。送信以上」


 送信が終わるとクロウはレイに頷く。

レイも黙って頷くと素粒子回線が閉じられた。


「クロウ、どこへ飛ぶ?」


 航海長ダフォーに答えてクロウが呟くように指示を出す、


「故郷だ。月が目視できなくなるまで微速前進。リーとニーナに我らの故郷を見せてやりたい」


「了解、座標位置確認ペガサス、目標母星、微速前進」

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