第83話



 ルイスの乗った迎撃機フォー1が一度戦線を離脱すると、旋回して空中戦に戻る。


「うひゃー、堪らないぜ。正面からロックオン、後方からはレーザービームの雨霰。もうすぐで蜂の巣だぜ」


 そう言いながら戦線に復帰したフォー1が見たものは、


「何だって! ハァー1が一騎討ちに出てるじゃないか」


 敵戦闘機ウイグル1機をハァー1が追尾して空中戦を繰り広げている。

ハァー1は二人乗りの迎撃機であるため、機銃操作には向いているが、旋回能力は他の迎撃機には劣るところがある。

然し、ハァー1はどう見ても相手方戦闘機には勝るとも劣らない飛行を展開している。

ハァー1の中でニーナが呟く、


「ボルグ、あなただけは許さない」


「ニーナ、落ち着いて」


 とルーが声を掛ける。


 ルーは、ニーナの手の動きを見ていた。

予め、ルーが素粒子砲にヒッグス粒子を充填していたのだが、ニーナは、より強力なレプトン粒子に切り変えようとしていた。

撃ち落とすつもりである。


「ニーナ、落ち着いて」


 もう一度、ルーはニーナに声を掛ける。


「あの飛び方はボルグの飛行」


「ニーナ!」


 ルーは、再度、声を掛ける。


「分かっているわ」


 ニーナは答えるが、あの日のことを思い出す。

ニーナの弟シーノが乗る訓練機を最後に点検したのは、当時の副隊長ボルグであった。

整備士たちが整備を終えた後、再確認と言ってボルグがあちこちを見て回っていた。

事故は偶発ではなかったのだ。

ボルグは副隊長の座を奪われたくはなかったのだ。

相手は若いパイロットだが、操縦技術どころか人格的にもボルグを超えていると隊員たちの噂であった。

上層部にも、その声は届いていた。

いずれ、そのうち・・・、

ならば、二人の操作ミスで責任を負わせれば副隊長の立場が危ういどころか、隊長に就任できるかもしれない。


 ニーナが気付くには遅すぎた。

気付けたのは、海賊船に乗る前に船長のクロウが言った言葉、


「君たち二人だけの責任ではない」


 と確かに言った。


「ニーナ、追いかけなくても良い。平行飛行で良いんだ。敵戦闘機に横付けするんだ。二人乗りの迎撃機は機銃を自由に動かせる。だが、敵戦闘機は正面からしか撃てない。横付けにするんだ」


「分かった、旋回してもう一度追い越すから、その時にヒッグス砲で敵戦闘機を傷つけて」


 ニーナは、機銃の素粒子充填装置をレプトン粒子に変えず、元のヒッグス粒子のままにしている。


「了解だ、ニーナ。迎撃機を横付けにしたら出来るだけ近づいて確認するんだ。逃げられないように」


「ルー、どう言うこと? 逃しはしないわ。でも確認て何なの?」


「旋回してくれ」


「分かったわ」


 ニーナとルーを乗せた二人乗りの迎撃機が追尾をやめて急旋回をすると、


「ふっ、俺の操縦についてこれなかったようだな」


 と戦闘機の中の男が笑う。

その時、急に迎撃機が横に現れる。


「何だ!」


 戦闘機の男は横を見る。

バイザーに隠れて顔は見えないが、感覚的に分かる。


「お前は、お前はニーナなのか」


 その瞬間にボルグを乗せた戦闘機が大きな光を放ち、大破する。

ルーの放ったレプトン砲だ。


「ルー?」


 ニーナが弱々しげに話しかける。


「あれは確かにボルグだった」


「ルー」


「弔い合戦なんて言葉は使いたくない。誤ってレプトン粒子を充填してしまったのは僕だ。船に帰れば独房入りだね」


「ルー、ありがとう。ルー・・・」

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