第81話



 「クロウ、俺たちは離発着室で待機しているぜ」


 迎撃隊隊長ルイスが船長に話しかける。


「いや、迎撃機に乗っていてくれ。月に動きが見られ次第、発艦だ」


「了解だよ」


「待って、私も飛ぶわ」


 ルイスの言葉の後に言ったのはニーナであった。


「良いのかい? 相手は武器商人じゃなくて、あんたと同じ地球人だ」


 ルイスが尋ねる。


「ええ、月面からあなたたちの戦いを見ていたわ。武器商人に対しては容赦なかった。でも、地球人に対しては警備艇にダメージを与えるだけで命は奪わなかった」


 その言葉を聞いてクロウがニーナに伝える。


「あれはヒッグス粒子を使ったエネルギー砲だ。後部座席にはルーを乗せてくれ。今回の戦いではダフォーの操舵が必要だ。ダフォーには、この船を預けなければならない」


 その言葉を聞いて、ルーがニーナに言う、


「ニーナ、安心してくれ。僕も何度か飛んでヒッグス砲の扱いは慣れている」


 ニーナはルーに目線を合わせながら頷くと、


「ええ、あなたを信用しているわ」


 と言う。


「ルイス、迎撃機フォー1、2、3、準備出来次第発艦だ。ハァー1、迎撃機に続いて発艦だ」


 クロウの指令にルイス、ニーナ、ルーが声を合わせるようにして


「了解」


 と言い、三人は離発着室へと走るように向かう。


 リーはニーナの後ろ姿を見送った後、クロウを見る。


「ニーナは今、自分を越えようとしている」


 リーの目線の意味を知っているかのようにクロウが答えた。


「ニーナが?」


「ニーナは一流のパイロットだ。しかし、過去に囚われて自由に動けていない。ニーナは、そんな自分を越えようと努力しているんだ」


「俺にできることは」


「そばに居てやれ、ニーナが自由な宇宙に向かって翼を広げれるまで、寄り添ってやれ」


「俺は・・・」


「誰もが自分を優先して考える、それで良い。だが、その次は誰なんだ? その思いが強くなるほど自分よりも相手を優先することができる時もある。ニーナもそうだ。今は自分のことしか見えていない。以前の君のように」


「・・・・・・・。」


「女の強さは男を超えることが多い。張り詰めた弦のように高い音を出しながら奏でる音楽のようなものだ。その弦が切れないようにそばに居てやれるのは君しかいない」


「・・・・・・・。」


「支えてやれ」


「クロウ、月に強力なエネルギーを確認。充填中の模様、現在エネルギーレベル1です」


 通信士レイの声が飛ぶ。


「了解、素粒子分解幕噴射、で良いよな? クロウ」


 答えたのは副長のウイスであった。


「それで良い、フォー1に伝えろ、全機発艦」


 続いてクロウが指令を出した。

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