第31話



 守衛室の前で話をしている男がいる。


「超素粒子変換チームのリーだ。外へ出たい」


「あ、はい、でも・・・」


「安心してくれ、君たちの見える範囲へしか行かないよ」


「そうですか、分かりました。その部屋で宇宙服に着替えてください」


 リーが着替え室に入ると、守衛が第3管理棟へと連絡する。

連絡を受けた者が、報告する。


「超素粒子チームのリーさんが、ドームの外へ出るそうです」


 その言葉を聞いていち早く反応したのはニーナだ、


「どう言うこと? まさかまたバギーに乗る気なの」


「いいえ、宇宙服だけを着て、外へ散歩に出るそうです。守衛室から見えない所へは行かない、と言っていたそうです」


「分かったわ、守衛さんたちにはしっかり見張ってくれるよう伝えておいて」


「分かりました」


 リーは、そんな守衛と警備班のやりとりがあるとも知らず、ドームの外へ出る。

暫くは子供のように飛んだり跳ねたりしていたが、ふと立ち止まると、ゆっくり歩き出す。

約束通り、遠くへ行く気配はない。


 ゆっくりと歩いていたリーが再び立ち止まると、身体をかがめて何かを拾う気配がする。

隕石である。

彼は分厚い手袋で、その石をしっかりと握りしめると、


「プレソーラー」


とヘルメットの中で呟く。 


 隕石をバイザー越しに見つめながら、宇宙に翳してみる。 

そして、再び呟く、


「プレソーラー粒子」


 大学の研究員だった頃、プレソーラー粒子を扱ったことがある。

リーは隕石を胸元まで下ろすと、そのままの姿勢で思い出す。

宇宙のチリと言われている隕石。

超新星爆発で散らばった隕石には、多くの謎が含まれている。

リーがそこに触れたのは、その隕石の結晶に素粒子化合物が含まれる可能性があったからだ。


 リーの瞑目は続く。

150億年前の宇宙、太陽系が出来上がる前の宇宙、数限りない超新星爆発を繰り返してきた宇宙。

水素とヘリウムしか存在しなかったと言われている原始宇宙で、その隕石には原子番号3以上の結晶が何十種類も検出された。


「プレソーラー粒子、素粒子」


 リーは何度も呟くと、


「宇宙、可能性、天文学」


 最後にそう言いながら、隕石が有った場所に静かに置き、ドームへと戻って行った。

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