第21話



 三人は、ラウンジで世間話を済ますと、各自の部屋へと帰って行った。


 自室に帰ったリーは窓から外を眺めている。

不思議な体験だった、と思う。

それとも睡眠薬で眠っている間に変な夢を見たのか?

ルーは何も見なかったと言っている。

然し、あの酸素は?

経過時間から見ても、とっくに無くなっている筈だ。

それに、バギーを運転したのは誰だ。

自分自身か?

まさか、睡眠薬を飲んでいながらバギーを運転して、セクターまで辿り着いたなんて考えられない。

何が起こったんだろう?

その前に、どうして道に迷ったのだろう?

ナヴィゲーションシステムは正常に作動していた。

なのに、そうして?


 朧げな記憶を辿ってみる。

病室でも考えていた事だ。

答えを出せずに窓の外を見ている。

大きな透明のドームに囲まれた外の宇宙は暗く静寂を保っている。

一度、頭を空っぽにして思い出してみるのも良い。

リーは、あの日の出来事を思い出してみようと思う。

 

 彼は瞑想家のように目を閉じると、なぜか少年時代からの思い出が蘇ってきた。


 リーは中国系アメリカ人だ。

父は高校教師で物理を教えていた。

時々、父が言っていたことを思い出す。


「物理学っていうものは、極めなければ高校で教えるくらいしか能がない。他に職を見つけたければ、物理学を捨てるしかない」


 そんな父親の言葉を聞いて育ったリーは、いつの日か物理学を極めてみたいと思うようになった。

学問が順調に進んでいた彼は、マサセッチュー工科大学で物理学を学び、その中でも超素粒子変換装置に興味を持つ。


 光とは素粒子である。

譬えば、石を池に投げ入れると波紋ができる。

これは、投石によって作り出されたH2Oの波紋、つまり水を構成する分子の運動である。

分子は原子から構成され、さらに小さなものを素粒子と呼ぶ。

波の動きは素粒子の動きと捉えることも出来る。

波長は光の素粒子であり、運動は波動である。

この波動を利用することで波動エネルギーが得られる。


 つまり、素粒子は三つの種類に分けられるが、

物質を作る物質粒子、クオーク。

力を伝えるゲージ粒子、レプトン。

そして、質量を与えるヒッグス粒子。


 この内のゲージ粒子、所謂レプトン、その中でもニュートリノを利用したのが超素粒子変換装置である。


 素粒子は1秒間に約100兆個が宇宙から飛来し、私達の体を通り抜けている。

つまり、これを利用すれば尽きることのないエネルギーを永遠に維持し続けることができるということになる。

 

 私たちが住んでいる地球には、太陽光線があるが、それ以外にも素粒子は真っ直ぐに宇宙を駆け巡っており、宇宙の中で住んでいる限り、尽きることがないエネルギーを得たことになる。


 彼は、このレプトンを専攻して大学院を卒業し、超素粒子変換装置の技術者として月へと移住した。

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