第20話



 リーとルーは第1管理棟にある応接室から出てくると、第4管理棟へ続く廊下を歩いていた。

流石に二人とも疲れ切った顔をしている。

それでも、明るい笑顔に戻してリーが言う。


「然し、参ったね。まるで犯罪者じゃないか」


「当たり前だよ、あれだけの事をしでかしたんだ」


「でも俺たちは病み上がりなんだぜ」


「君は元気そうに見えるけどね」


「おいおい、よせよ、そんな言い方。それよりも、病室で口裏を合わせておいて良かったよ」


「君は文才があるよ。小説家にでもなった方がいい」


「そうか? 書いてみようか」


「無理だ」


「無理はないだろう! 今、言ったじゃないか」


「そんな事、言う訳がない」


「ルー君、得意の技が出ましたね」


「技じゃない」


 廊下の向こう側に、一人、女性が立っている。

まるで二人を待ち伏せしていたかのように、腕を組んで向かい側の壁を見つめている。

二人は近くまで来ると、


「やあ、ニーナ、こんな所で何をしているんだい?」


 声をかけたのはリーである。


「あのね、お二人さん、よくもまぁ笑顔でいられるわね? あれだけの事をしでかしておいて、反省の色が全く見えないわ」


「そんな事ないよ、反省はしているよ」


「ルー、あなたに言っているんじゃないの。リー、あなたよ。どうせルーを無理やり引っ張って行ったんでしょ?」


「そんなことはないよ。二人で計画したんだ」


「顔に嘘って書いてあるわ」


「ニーナ、リーの言っていることは本当さ」


「仲の宜しいことで、まぁ、いいわ。それで?」


「それでって何だい?」


 ルーの言葉を受けて、再びニーナが質問をする。


「諮問委員会で、どんな言い訳をして帰って来たかって言うことよ」


「言い訳じゃない、事実の証明だ」


 ニーナの質問に今度はリーが答える。


「どう考えてもおかしいわ。酸素量は足りなかったはずよ」


「そんなことないさ、こういうこともあろうかと思って予備タンクを積んで行ったんだ」


「じゃ、その酸素ボンベは?」


「バギーの充電が切れそうだったので、重いものは途中で捨てて来たんだ」


「あら、そうなのね」


 リーの言い訳に呆れ顔でニーナが答える。


「本当だよ」


「ルー、あなたは黙ってて。て言うか、リー、あなたは答えないで」


「それは駄目だ、ルーは睡眠薬を飲んで寝ていたんだから。何も知らないんだ」


「上手い言い訳を考えたものね。じゃ、充電はどうなの? あの時間じゃとっくに充電器の電気は空っぽの筈よ?」


「ニーナ、そんなに遠くへは行ってないんだ。つまり走り続けていたって言う事じゃないんだ。途中でバッテリーを切って景色を見ていたんだ」


「あらそうなの? こんな月面の何もない荒野を?」


「まるで諮問委員会の続きだよ」


「そう、そうね、ごめん、悪かったわ。でも、心配してたのよ。救助信号も発信しないで」


「え? あ、そうそう、発信するほどの出来事じゃないと判断したんだ」


「はぁ? もういいわ。ラウンジに行って一杯やりましょう。生還祝いに奢るわ」


「おい、聞いたか?ルー。ニーナが奢ってくれるんだっって、聞いたよな?」


「ニーナ、それは悪いよ」


「つべこべ言わずについて来なさい。もう諮問委員会はお開きよ」


 三人は、最上階にあるラウンジへと登るエレベーターの方へ歩いて行った。

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