第19話
リーはパイプ椅子に座ると暫く考え込んでいるかのように見えた。
やがて彼は、何かを思い出そうとするかのように語り出した。
「なぁ、ルー。あの時のこと覚えているかい?」
「あの時って、どの時だい?」
「俺たちが睡眠薬を飲んでからのことさ」
「睡眠薬を飲んでからのことなんて覚えている訳ないじゃないか」
「そうだな、君が先に寝てしまったのかもしれない。いや、そうじゃない、俺が途中で起きてしまっただけだと思う」
「睡眠薬が切れてしまったって言うことかい?」
「そうかもしれない、想像なんだ。ルー、俺たちがセクターに着いたのにはどれくらいの時間が経っていたと思う」
「酸素の量から考えると一時間前後だろうな」
「そうじゃないんだ、看護師に聞いてみたんだが教えてくれないんだ。だから、仕事の都合でと嘘を言って内線電話を借りたんだ」
「何処へ連絡するつもりだったんだい?」
「守衛室さ」
「守衛室? 彼らは何かを教えてくれたのかい」
「ああ、俺たちを見つけてくれた人がね、矢継ぎ早に喋ってくれたよ。自慢げにね」
「で、?」
「俺たちがドームの前に車をつけた時、守衛はびっくりして宇宙服に着替えて飛び出してくれたらしい。車の中を見ると、気絶したように見える俺たちが居たそうだ。それから宇宙服に装着されている無線機を使って救急室に連絡してくれたそうだ。その時の時間を彼はしっかりと覚えていてね。聞いてみたらびっくりしたよ、睡眠薬を飲んでから三時間も経っていたんだ」
「そうかい」
「驚きだろ! どうやって酸素を手に入れたんだい? しかも、誰が運転してドームの前までバギーを操ったと思う?」
「君じゃないのかい?」
「馬鹿なことを言うなよ。酔っ払い運転ならまだしも、睡眠薬を飲んで眠ってるんだぜ」
「君は睡眠薬が切れて目が覚めたって言ったじゃないか」
「酸素も、運転も分からないんだ」
「僕にも分かるわけないよ」
「不思議だと思わないのか? でも、俺は夢現に見たんだ。バギーの外から窓越しに俺たちを見ている奴がいたんだ」
「まさか、その人が車の中に入って運転してくれて、酸素までくれた、とでも言うのかい?」
「そうとまでは言わないが、俺たちはこうして生きている。それがどうしてなのか分からないんだ」
「生きている、それだけでいいじゃないか」
「ああ、そうかもしれない・・・、けど・・・、ああ、そうだな。じゃ、自分の病室に戻るよ」
「それがいいよ。君も僕も、あまり良い状況じゃないからね」
「どう言うことだい?」
「あれだけのことをしてしまったんだ。諮問委員会が開かれるよ。罰はないと思うけど、搾られそうだ」
「取り敢えずは、そこだな」
そう言ってリーは笑顔を作ってルーの病室から出て行った。
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