第17話



 静かな月面の上でバギーが佇んでいる。

車中に居る二人は出来るだけ酸素を消耗しないようにと、会話を避けている。

あれから三時間が過ぎようとしている。


「遅いな」


「喋るんじゃない」


そんな会話だけが静寂を破って聞こえる。


「そろそろ、充電が切れそうだ」


「諦めるな」


 ルーの弱気な言葉を引き受けてリーは励まそうとするが、いつの日か小型の超素粒子変換装置ができればバギーにも装載出来て、こんな目に遭わずに済むんだろうと思うが、言葉にはしない。

それよりも、今、このバギーにそんな便利なものがあれば、とも思う。


「そろそろ、ヘルメットを被ろう。車内の酸素も終わる頃だ」


「ああ、救助信号は?」


「だめだ、こっちもそろそろだ」


「そうかい」


「ルー、済まない」


「今更だ。けどね、僕は君に会えて楽しかったよ」


「セントラルでまた会おう」


「ああ、また会おう」


 酸素の消費を考えた言葉少なな会話だが、そう言い終わると、二人は酸素の消費を最小限にするために、ヘルメットを被る前に、コップ一杯の水で睡眠薬を飲んだ。

死に対する最後の抗いだ。

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