第16話



 二度目の衝撃だ。

大きな窪みでジャンプしたバギーが窪みの底に勢いよく着地した。

リーは速度を変えずに窪みの急斜面を這い上がろうとする。


「ほんとうに君って奴は、これじゃバギーは保っても中にいる人間の方がお陀仏だよ」


「安心しろって言ったろ、俺は」


「そう、君の運転はプロのレーサーと同じなんだろ」


 リーの言葉を引き継いでルーが答える。


「分かってりゃ、それで良い」


 そうこうしながら、バギーは月面を猛スピードで走り続ける。

ルーは縦長のバギーの後部座席でリーの運転に任せていたが、陽気なリーが静かになっていくのが分かる。


「どうしたんだい?」


「大したことはないんだが、道を失ったみたいなんだ」


「大したことないって、まだ未開拓地の月面で大したことがないって、どう言うことなんだ。ナビゲーションシステムを見ていなかったのか?」


「それがね、何度かのジャンプで壊れちまったみたいなんだ」


「なんてことだ、それじゃこの月面の荒野で迷子になったって事じゃないか」


「大丈夫だって、セクターとセクターの間の荒野だ。誰かが見つけてくれるさ」


「馬鹿なことを言わないでくれ、誰が月面を選んで、しかも第2セクターに行こうとする奴なんているもんか」


「そうじゃなくて、今、救助信号を発信したよ。見つけてくれるまで待つ。永ろうべきか、死すべきか」


「何を呑気なことを言っているんだ。酸素の状態はどうなんだ?」


「ああ、充分、三時間分はあるさ」


「それに加えて宇宙服に備え付けの酸素が一時間」


「四時間もあれば救助隊が助けに来てくれるさ」


「冗談じゃない、四時間もここでじっとしていろって言うのか」


「四時間じゃないさ、そろそろ信号を受け取ってくれてるだろうし、バギーなら二時間で着くよ。さらに救助用の小型宇宙船なら一時間もかからないさ」


「ピクニックてか? 救助船なんか来たら大騒ぎだ。ニーナの呆れた顔が目に浮かぶよ、まったく」


「サンドイッチ、食べないか?」


「ふざけるな」

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