第15話



 第7セクターから一台のバギーが月面を走り出す。

第7セクター内には第3管理棟と第4管理棟が入っているセントラルタワーがある。

セントラルタワーといっても囲いの中に細長く高い建物があって、そこに地下道で繋がれた管理棟が林立しているだけである。

そして地球人の七番目の移住区でもある。


 そこから走り出したバギーの中で二人の男の話し声が聞こえる。

バギーの中では宇宙服は着ているものの、有酸素状態なので二人の男はヘルメットを脱いで話をしている。


「どうして月面を走るんだい? 地下道を通れば良いじゃないか」


 言ったのは環境保全、海水分解装置担当のルーである。


「だから言ったろ、ピクニックだって」


「それは分かるけど、わざわざ悪路を選ぶ必要なんてないじゃないか。しかも、どうしてピクニックなんだい?」


「最近、殺伐としたニュースばかりだからね。気晴らしだよ」


 その時、月面の凹凸でバギーが大きく跳ね上がる。


「そらみろ、これじゃ目的地に着くまでバギーは保たないよ」


 着地の衝撃で大きく揺れた車内でルーが声高に言う。


「そんなことはないさ、俺の運転はレーサー並さ」


 と超素粒子変換装置担当のリーが答える。


「ところで、行き先をまだ聞いてなかったよな」


「おう、行き先か、第2セクターだ」


「何を言っているんだ。あそこは立ち入り禁止だろ」


「俺を誰だと思っているんだい? 超素粒子変換チームのリー様だぜ」


「そんなことは僕も知っているさ。でも、あそこは誰も入れない。手続きも必要だし、メンバーも必要最小限の人数が必要だ」


「俺じゃ駄目だって言うことかい?」


「そうじゃない、あそこに行くには君は必要な人物だ」


「その相棒がルー君じゃ駄目だってことかい?」


「当然だ、僕は環境保全係の海水分解装置担当だ。超素粒子変換装置とは何の関わり合いもない」


「情けないことを言いなさんなって。君は俺の大切な相棒だ」


「私情を挟まないでくれよ。無理なものは無理だ」


「安心しろよ。ドームの中には入らないよ。ドーム越しに超素粒子変換装置を眺めながら、君にあの装置の素晴らしさを説明しようってことさ。それだけだよ」


「とんだピクニックだ。あそこは近寄るだけでも警報装置が鳴るような所だってことくらい、一番よく知っているのは君じゃないか」


「だから、警報が鳴らない所までなら近づけるって訳さ」


「そんな所からじゃ、ドームの中までなんて見ることなど不可能だ」


「だからぁ、これを持って来たんじゃないか」


 リーは、そう言いながら運転席の横に置いてある自分の鞄を片手で探っている。

取り出して来たのは大型の双眼鏡だ。


「全くもって、そこまでして僕に何を説明しようって言うんだい」


「俺がどれだけの働きをしているか、君に知ってもらおうと思ってね」


「何を言ってるんだ、働いているのは装置だけで、君はそれを監視しているだけじゃないか」


「おいおい、監視はニーナの専門だろ?」


「そんなことを言っているんじゃない」


「分かっているさ」


 ルーは急に浮いたような感覚を持った。

今度はバギーが月面の大きなくぼみに差し掛かり大きくジャンプした。

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