第7話



 「しかし、有難いね。これだけの新鮮なサラダが食べられるんだ」


 セントラルタワー内にある食堂でリーがルーに語りかける。


「そうだね」


 とルーは無表情のままに返事をしながら、パスタを食べている。


「もっと感動しろよ、俺たちの親父が子供の頃なんか月で住む事なんか考えもしなかっただろうし、俺たちが子供の時にやっと月への移住計画が発表されて、あっと言う間に此れだけのコロニーが出来上がったって、人類の凄さを感じるよ」


「そうだね」


 やはり、無感動でパスタを食べながら返事をしているルーを見ながら、リーはニヤリと笑うと、お箸でルーの皿から数本のパスタを奪い取り、自分の口の中へ入れる。


「おい、何をするんだよ」


「だって、お前が無感動だからだよ。このパスタだって、空気と水とで育てられた大切な植物から作られているんだぜ。だから、もっと感動しろって言っているんだよ」


「それとこれとは別だ」


 そう言いながら、ルーはリーのトマトを奪い取り、口の中へ入れる。


「おい、よせよ」


「うん、本当だ。このトマトの味は感動ものだ」


「油断も隙もあったもんじゃない」


「それはお互い様だ」


 そこへ第3管理棟のニーナがやってくる。


「あらあら、お二人さん、いつも仲の宜しいことで」


「やあ、ニーナじゃないか」


 リーが軽く声を掛けるが、ルーは食べていたトマトが口から出そうになる。


「どうしたのルー、ゆっくり食べないといけないわよ」


「いや、そうなんだけど、どうして此処へ? 第3管理棟にも食堂はあるだろう?」


「あそこはあまり好きじゃないの。此処に比べると小さくてね」


「その分、メニューの数も少なくなる、ってことかい」


 ルーに変わって、リーが話し掛ける。


「そうね」


 と言ってニーナは両手を拡げるが、


「それだけじゃないんだろ?」


 とルーがしっかりとトマトを飲み込んだ後、水を飲んでから聞き返す。


「そうよ、あそこで食事をしていると誰かに見られているような気がするの」


「さすが警備担当のセクションだね」


 リーが言うとルーが続けて言う。


「違うよ、君が美しすぎるからだよ」


 今度はリーが食べていたレタスを口から吐き出しそうになりながら咽せ込む。


「あら、リーったら、ちょっと、その態度は失礼じゃない」


 リーは頷きながらも、まだ咽せ込んでいる


「真面目な話、僕達に用事があって、こっちの大食堂の方に来たんじゃないのかい?」


 まだ咽せ込んでいるリーを無視しながらルーがニーナに質問すると、


「ええ、第4管理棟に行ったら、二人ともいないんで、食堂しかないと思ったの」


「なるほど、俺たちがどこへ行ったかなんて人に聞くまでもないってことか。それで?」


 咽せ終えたリーがニーナに言うと、


「ええ、今のところ機密事項でもないから噂話ということにして、お二人さんに聞かせてあげるけど、先日の船荷の強奪事件、地球人じゃないかもしれないって、誰かが言ってたの」


「おいおい、第3管理棟、警備担当の職員が、そんなこと簡単に漏らしてもいいのかい」


「だから、噂だって言ってるじゃない。ルー、海水分解装置担当の貴方には話しといてあげようと思ったの」


「安心してくれ、僕は海水と真水と塩と酸素が担当だ。武器なんかとは関係ないよ」


「でも、襲われたのは海水輸送船よ」


「ありがたく拝聴しておけよ、ルー」


 そう言うと、リーは食べかけのサラダをお箸で摘んで口に入れる。

それを見ながら、ニーナも持ってきたトレイのフォークを取り食事を始めるが、どういう訳かルーだけが難しい顔をいていた。

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