第47話

 一月三日、俺は久しぶりにバイトに入っていた。バックヤードに入ると、店長がいた。


「鈴木くんか・・・」


「久しぶりです」


「色々と迷惑かけて悪いね」


「怪我は大丈夫なんですか?」


「まあ、医者には安静にしろって言われたけど、そうはいかないよ」


「あんまり無理しないでくださいね」


「ありがとう」


 そういう店長の顔はいつもより明るい気がした。


「早速なんだけど・・・」


「なんですか?」


「品出ししてもらえるかな?」


「わかりました」


 早速、俺は品出しを始めた。この時間は俺と店長しかいないから、品出しは一人でしないといけない。それにしても、いつも以上に今日は品出しが大変な気がする。


 品出しを終え、レジに入ると


「最近、物騒な事が多いよね〜」

と普段口数が少ない店長から声をかけてきた。


「そうなんですか?」


「隣町の法律事務所に不審者が入ったんだって」


「そんなことがあったんですか」


「うちの店も変な人が来ないといいなぁ」


「そうですね」


 このコンビニも変な人ばかり来るからだいぶ危険だ。まあ、駅前にあるコンビニだから仕方ない気もするが・・・。


「しかも、高校生らしいよ」


「そうなんですね」


「でも頭が足りてないよね。なんで選りに選って法律事務所に入っちゃうんだろうね」


「変な子ですね」


「本当にそうだよね」


 店長は人が変わったように饒舌だ。こんな店長の姿は初めて見たかもしれない。入院して何か変わったのだろうか?


 そんなことを思っていると、女の人が店の中に入ってきた。


「いらっしゃいませー」


「きちゃったー」

と声をかけられた。


 顔を見ると麻里奈だった。


「え・・・?」


 突然のことに何が起きたのかよくわからなかった。


「驚いたー?」


「うん・・・、驚いた」


「どうかした?」


 店長が声をかけてきた。


「直人の彼女です」


「鈴木くん彼女いたんだ」


「そ、そうです」


 そういえば、まだ店長に言ってなかった。別に言う必要もないが・・・。


「し、しかもギャルだ・・・」


 さっきまでの饒舌はどこに行ってしまったのだろうか?店長は急に言葉を失った。


「なんか、来たらやばい感じだった?」


「そんなことないよ」


「ても、店長さん困ってる感じがするけど・・・」


「店長変な人だから・・・」


 俺は麻里奈の耳元で囁いた。


「そーなんだ」


「そういえば、何しに来たの?」


「支払いに来たんだけどー」


 そう言って、麻里奈はバックから振り込み伝票を取り出した。


 俺は初めて麻里奈をお客さんという目線で見た。少し照れくさかったが、なんとか対応を終えた。


「ちゃんと仕事してるんだねー」


「してるに決まってるじゃん」


「そっかー」


「まだ帰らないの?」


「直人と一緒に帰りたいなーって」


「夕方の六時までバイトだよ」


「そーなんだー」


 そう言う麻里奈は少し寂しそうだった。できるなら、俺も麻里奈と一緒に帰りたい。そんなことを思っていると、


「鈴木くん、帰っていいよ」

と店長に言われた。


「え?まだ二時間シフト入ってるんですけど・・・」


「このあと、カミさんが来るから大丈夫」


「わかりました」


「じゃあ、着替えてくるから待ってて」


「わかったー」


 俺はバックヤードで制服から私服に着替えた。


 着替えてレジのところに行くと、店長の奥さんが鋭い目つきで店長のことを見ていた。


「今度は女子高生に手を出したんか?」


「ち、違うって」


「早く本当のことを言えって」


 かなりの修羅場に遭遇してしまった。なんとか止めないといけないと思い、


「麻里奈こっち」

と手招きをした。


 すると、麻里奈は俺の横にきた。


「もしかして、鈴木くんの彼女だったのかしら?」


「そうです」


 俺がそう言うと、店長の奥さんは冷静さを取り戻した。


「ごめんなさい。少し取り乱しちゃった」


「大丈夫です」


「退院してからやたら若いこと話すことが増えたから」


「そうだったんですね」


「この前なんか、看護師に電話番号教えちゃって・・・」


 奥さんの愚痴は止まりそうにない。店長は隣で棒立ちをしている。多分、本当のことなのだろう。


「だから、また電話番号教えてたのかなーって思ちゃって」


「なるほど・・・」


「私、ナンパはすぐ断るんで」


 麻里奈はキッパリと店長の奥さんに言った。


「それならいいんだけど・・・」


 店長の奥さんは麻里奈の圧に負けたのか、急に静かになった。


「じゃあ、お先に失礼します」


「気をつけて帰るんだよー」


 俺と麻里奈はコンビニから出た。


「店長の奥さん少し怖かったねー」


「うん、でも前は優しかったと思ったんだけど・・・」


「そうなんだー」


「まあ、店長があんな感じだから・・・」


「直人の言う通り、変な人だね」


 麻里奈は笑いながらそう言った。


「そーいえば、今年入ってから毎日のようにあってるねー」


「確かに」


「明日も会えるといいなー」


「明日はバイト先にはいないよ」


「そっかー」


 そんなことを話しながら、アパートに向かった。










 

 


 

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