第42話

 麻里奈が寝室の掃除をしている中、俺はシャワーを浴びた。シャワーを浴びている時、どれがシャンプーかわからない。四つくらい色の違うシャンプーボトルがあるからどれを使っていいのかよくわからない。


 なんとなく、真っ白のシャンプーボトルのポンプを押してみる。すると、シャンプーらしき液体が出てきた。俺はなんとか洗髪をすることができた。


 シャワーを浴び終え、俺は濡れ髪のまま麻里奈の寝室に入った。


「シャワー出たよ」


「な、なんで入ってきちゃうのー」


 麻里奈はクローゼットの扉を必死に押さえながらそう言ってきた。


「何してるの?」


「洋服とか入れたら閉まらなくなちゃって・・・」


 クローゼットの扉は、キュウキュウと音を立てている。いつ扉が外れてもおかしくない状況だ。


「一旦、全部出してみたら?」


「そうしようかなー」


 そう言った瞬間、「ミシッ」と大きな音がした。


「なんかヤバい音しなかった?」


「手、離してみれば?」


「うん」


 麻里奈は恐る恐るクローゼットの扉から手を離す。すると、扉が一気に開き、クローゼットの中から大きな熊のぬいぐるみが出てきた。


「ギャー!」


 麻里奈は外に漏れるくらいの声で叫んだ。


「すごい数だな・・・」


 女子は部屋にぬいぐるみを置いているイメージがあるが、ここまで大きいぬいぐるみだと思わなかった。


「直人と一緒のベットで寝るから、クローゼットにベットに置いていたぬいぐるみをしまったんだけど・・・」


「そうだったんだ」


 その結果、クローゼットの中からぬいぐるみが溢れてきた。

 

「ひ、引いたよね?」


 麻里奈は不安げな顔をして聞いてくる。


「そんなことで引かないよ」


「本当に?」


「うん」


 そういうと、麻里奈はいつもと同じ表情になった。それにしても、このぬいぐるみたちはどうするのだろう?


「どこにぬいぐるみしまうの?」


「そうねー・・・」


 麻里奈は真剣に考え込んでいる。すると


「ソファーに置けばいいんだ!」

とひらめいたように言った。


「そうだね」


「大きいから手伝ってくれない?」


「いいよ」


 俺と麻里奈は大きな熊のぬいぐるみをソファーまで運んだ。


「これで直人とベットで寝れるねー」


「そうだね」


「じゃあ、私シャワー浴びてくる」


 そう言って、麻里奈は洗面所に行った。その間、俺は大きな熊のぬいぐるみと横並びになってソファーに座った。


 スマホで動画を見ていると、葛西からメッセージが届いた。


「(誠)今日は楽しかったな」


「(直人)そうだね」


「(誠)米村さんに人形焼渡したか?」


「(直人)渡したよ」


「(誠)ならよかった」


 そんなやりとりをしていると、もこもこしたパジャマを着た麻里奈が洗面所から出てきた。


「直人と熊が一緒に座ってるー」


 麻里奈は笑いながらそう言った。


「いい相方を見つけたかもしれない」


 そう言うと、麻里奈は顔を膨らませた。多分、怒っているのだろう。何か言ってしまっただろうか?


 そんなことを思っていると、麻里奈はソファーに置いた大きな熊のぬいぐるみを床に移動させた。


「直人の隣に座っていいのは私だけなんだから!」


 そう言って、麻里奈は俺に寄り添うように座った。


「熊のぬいぐるみに嫉妬しないでよ・・・」


「だって、私よりいい相方なんでしょ?」


「あれは・・・」


「私は違うの?」


「麻里奈は俺の恋人だから」


「だから?」


「相方以上の存在です」


 そう言うと、麻里奈は顔を赤くした。


「これで許してくれる?」


「うん。今回は特別に許してあげる」


 なんとかお許しをもらえた。これからはあまり変なことを言わないようにしよう。


「もう寝ない?」

とあくびをしながら麻里奈は聞いてきた。


「まだ早くない?」


「だって、初日の出見たりしたから眠たいんだよねー」


「そうなんだ」


「直人は初日の出見なかったの?」


「寝てた」


 初日の出を見るような高台がないから俺は見に行かなかった。


「どこで見たの?」


「川の土手から見たよー」


「あんなところまで行ったの?」


 このアパートから川の土手まではかなりの距離がある。


「うん、自転車で行ってきたー」


「そうだったんだ」


 そう言うと、麻里奈のあくびが移ったからなのか俺も大きなあくびをした。


「直人も眠たそーじゃん」


「麻里奈のあくびが移ったんだよ」


「じゃあ、もう寝よ」


「そうだね」


 俺と麻里奈は寝室に入った。俺は先にベットの中に入った。麻里奈のベットにある毛布は俺の部屋の毛布よりモコもとしていて暖かい。そして、とてもいい匂いがする。  


 そんなことを思っていると、麻里奈がベッタリとくっつくようにベットに入ってきた。


「いつもより近くない?」


「そーかな?」


「麻里奈って他の男子と付き合ってる時もこんな感じなの?」


 正直、俺以外の男子と一緒に寝たことがあったら少しがっかりする。


「直人としか一緒に寝たことはないよ」


「そうなんだ」


「それに・・・」


「それに?」


「キ、キスも直人が初めてだったんだからね」


「そ、そっか」


 そう言われ、俺は身体中が熱くなった。俺が麻里奈のファーストキスを奪ったんだ。そう思うと、謎の優越感に浸ってきた。


「な、直人はどうなの?」


「俺も麻里奈が初めてだよ。そもそも初カノだし・・・」


「そっかー」


 そう言うと、麻里奈は静かになった。麻里奈の方を見ると、目を瞑って寝息を吐いていた。麻里奈はかなり眠たかったのだろう。俺も寝ることにした。


 




 


 


 

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