SIDE B

 麻里奈の父は蕎麦屋から自宅に帰ってきた。


「あなた、帰りが遅かったじゃない?」


「ちょっとな・・・」


「ちょっとって何?」


 母はいつもより声のトーンを下げて父に言った。


「直人くんに会ってきたんだ」


「また勝手なことして・・・。麻里奈が可哀想よ」


 母は過保護の父に呆れていた。もう少し娘を信じてあげてもいいと思っている。


「いい子だったよ、直人くん」


「あら、そうなの?」


 普段、人を褒めない父が絶賛していて母は驚いていた。


「連絡先も交換したからな」


「えー!?」


 母は除夜の鐘より大きな声で驚きを表した。


「年の瀬に大きな声出してどうしたんだよ?」


 心配そうに兄がリビングに入ってきた。


「お父さんが麻里奈の彼氏に会ってきたんだって」


「余計なことして・・・。麻里奈に嫌われるぞ」


「しかも、その彼氏と連絡先交換したんだって」


「マジで!?」


 兄も母のことが言えないくらいの声量を出した。


「職場の人と連絡先を交換しない父さんが・・・」


 兄は珍しく言葉を失っていた。


「職場は会社の携帯があるから必要ないだろ?」


「それはそうだけど・・・。なんで交換したの?」


「それはな・・・、一緒にそばを食べたいから」


「「そんな理由だったの!?」」


 母と兄は声を揃えた。


「重要なことだろって!」


「まあ、俺がそばアレルギーだからな」


「それもあるし、直人くんはそばの食べ方をよくわかっている」


「そういえば、あなたはお蕎麦が好きだったわね」


 父は三食そばでもいいと言うほどのそば好きだ。


「初めての顔合わせの時、駅前の蕎麦屋だったのよ」


 母は少し恥ずかしそうに話す。


「父さんと母さんの馴れ初めはいいから」


「とにかく、直人くんはいい子だ。もっと早く紹介してくれればよかったのに・・・」


「私も会ってみたいわ!」


「余計なことしない方がいいよ。麻里奈の彼氏も可哀想だよ・・・」


 兄は呆れ気味に言った。


「今度はうちに来てもらおう」


「あら、いいわね」


「母さんまで乗り気にならないでよ・・・」


 麻里奈の知らないところで勝手に話が進んでいた。


 


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