第38話

 一月一日、俺は電車に乗っていた。葛西とは電車の中で合流する約束をしている。しかし、俺が乗った頃にはほぼ満員電車でとても合流できる雰囲気ではない。


 そんなことを思っていると、葛西が乗ってくる駅の電車が止まった。すると、一気に人が降りていった。席に座っていた人も降りていったからそこに座ると


「おつかれ!」

と葛西が声をかけて隣に座ってきた。


 俺は葛西の服装を見て笑ってしまった。


「何が変なんだよ」


「個性的だなーって」


 葛西は色落ちしすぎたデニムパンツに茶色の革ジャンを着ている。俺の服装にケチをつけられないくらいの着こなしをしている。


「別にいいだろ。ナンパするわけじゃないんだから」


「まあな」


「この前、古着屋で買ったんだよ」


 そう言って、自慢げに革ジャンを見せてくる。


「そ、そうなんだ」


「その反応、なんだよ」


 バイクに乗る人が着るような革ジャンだから電車の中で着ているのに違和感を感じる。


「ダンディーな感じじゃないかな?」


 俺は角が立たないように葛西の服装を評価した。


「遠回しでオッサン見たいって言ってるのか?」


「そう言うわけじゃないけど」


「お前は綺麗な感じの服装だよな」


「そうかな?」


 特に深く考えずに黒スキニーを履いたりしただけだが・・・。


「米村さんにコーデしてもらってるのか?」


「そんなことしてもらってないよ」


「本当は?」


「だから本当にしてもらってないって」


「そうか・・・」


 葛西は言葉を失っていた。


「そういえば、葛西の最寄り駅って何かイベントってあるのか?」


 俺は話題を変えた。このまま服装の話をすると葛西のメンタルが持たないと思うからだ。


「初詣に行く人たちじゃないかな?」


「縁結びで有名な神社に行く人?」


「そうそう、なんで知ってるの?」


「この前、麻里奈と行ったから・・・」


「そういうことか・・・」


 また葛西は言葉を失ってしまった。俺はあえて何も話さないことにした。すると、


「若者をいじめて楽しいか?」

とどこかで聞いたことのある台詞が葛西の口から出てきた。


「別にいじめてるわけじゃないし・・・。俺も一応若者だし」


「一対二で僕の負け?」


「その話し方やめろって」


「わか、わかも、いじめ・・・」


 噛みすぎていて何を言っているのかわからない。しばらくすると、葛西は落ち着きを取り戻した、


「ちょっと興奮しすぎた」


「ちょっとどころじゃなかったけどな・・・」


 今日の葛西はいつも以上に変だ。服装も変だし、言動もおかしい。変なあやかしが取り憑いているのだろうか?


「葛西は浅草寺でお線香の煙をたくさん浴びないといけないかもな」


「そうかもしれないな」


 そんなことを話しながら、ずっと電車に乗っていた。仕事に行く人が少ないからか、思ったより人が少なかったから人混みが苦手な俺は安心した。


 そんなことを思っていると、


「カップルばっかりこの電車に乗ってくるよなー」


 あたりを見渡すとカップルが大半だった。家族連れもいるが、少し早いからかあまりいなかった。


「そんなこと気にするなよ」


「彼女持ちに言われても説得力ないって」


 そんなことを言われてしまったら、何も言い返すことができない。


「まあ、今日はお前がいるからいいけど」


「あ、ありがとう」


「この前、一人で池袋行ったら悲惨な目に遭ったからな」


「そうか」


 多分、カップルしかいなかったという話だろう。聞かなくてもわかってしまう俺が恐ろしく怖かった。


「カップルだらけで肩身が狭かった」


 やはり、カップルが多いという話だった。


「いつ行ったの?」


「クリスマスイブ」


「そりゃ、多いに決まってるだろ」


「しゃーないだろ、アニメのサイン会に行かないといけなかったんだから」


「それは仕方ない」


 そういえば、葛西はアニメ好きだったな。


「帰る途中、アニメグッズ見ていく?」


「いいね」


 葛西の機嫌がさっきより良くなった。アニメグッズの力はすごいと改めて感じた。



・・・



 俺と葛西は上野駅で銀座線に乗り換え、浅草に向かった。銀座線はさっき乗った路線と比べ物にならないくらい混んでいた。こんなに地下鉄が混んでいるとは思わなかった。客の声と駅員の声が響き渡っていて、葛西とまともに会話ができない。すると、


「(誠)先頭車両の方に行こう」

とメッセージが届いた。


 俺はグッドポーズをして葛西と先頭車両が止まるところまで移動した。人は相変わらず多いが、さっきよりマシになった。


 そんなことを思っていると、電車が来た。中には恐ろしいほど人が乗っている。俺と葛西は体を捻りこむようにして電車に入った。乗ったはいいが、人が多すぎて息苦しい。途中停車を含め、六分間この電車に乗らないといけないが耐えられるか不安でしょうがない。脳内でドナドナが流れていた。


 その後、なんとか浅草駅に着き、降りることができた。電車から降りて葛西を探していると、疲れ切った顔をした葛西が俺に近づいてきた。


「大丈夫か?」


「な、なんとか・・・」


 俺と葛西は改札を出て、一番出口に向かった。




 

 

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