SIDE B
十二月二十八日、米村麻里奈は兄の誕生日会があったから約二ヶ月ぶりに家族がいる家に帰ってきていた。夕食を食べ終えた後、
「お兄ちゃん、これ誕生日プレゼント」
と言ってラッピングされた箱を兄に渡した。
「買ってきてくれたの?」
「そう、早く開けてみてー」
そう言う前から、兄は包装紙を剥がし始めていた。
「財布じゃん。ちょうどボタンがダメになってたからありがたい」
「直人と選んでよかったー」
「直人って誰だ?」
麻里奈は口を滑らせて鈴木直人の名前を出してしまった。
「詳しく話を聞かせない」
父が鋭い視線で麻里奈のことを見る。
「わ、私の彼氏だよ」
「また彼氏なんか作ったのか?」
「べ、別にいーじゃん」
「どれだけお前の元彼に迷惑されてるかわかってるのか!」
父は少し強い口調で麻里奈に言う。
「直人は今までの彼氏と違うもん」
「俺はそんな男と一緒にいることを許さないぞ」
昭和の頑固親父が発動してしまった。すると
「麻里奈がそこまで言うなら違うんじゃない?」
とキッチンにいる母が話に入ってきた。
「な、なんでそう思うんだ」
「だって、彼女の兄のプレゼント選びなんて、今までの彼氏はしたと思う?」
「そ、そんなの知らないよ」
「少なくとも上坂くんはしないと思うわ」
母は、麻里奈の味方についた。
「確かにそうかもな」
兄まで麻里奈の肩をもった。
「み、みんなしてそう言うのか!」
「そんなに直人のことを悪く言わないで!」
珍しく、麻里奈は食卓で大きな声を出した。
「ち、父に向かってなんて態度を取るんだ!」
「もう、知らない」
そう言って、麻里奈は自分の部屋がある二階に上がってしまった。
「お父さんも言い過ぎよ」
「だ、だって俺は麻里奈のことが心配で・・・」
父は麻里奈のことになるとつい口うるさくなってしまう。
「麻里奈が父さんに逆らうところ、初めて見たかも・・・」
普段、逆らってばかりの兄がボソッと言った。
「それだけ直人くんのことが好きなんだろうね。若いっていいわね」
母がそういうと、父は席を立ち、麻里奈の部屋に向かった。そして、ドア越しに声をかける。
「麻里奈、父さんだ」
「もう来ないで!」
麻里奈がこんな態度を父に取ったは初めてのことだ。父もどうすればいいかわからなくて困っている。
「さっきは少し言いすぎた。ごめん」
珍しく父は反省して謝った。すると、ドアが開いた。
「わ、私もお父さんに言いすぎた・・・」
「父さんは麻里奈のことが心配で・・・」
「うん、わかってる」
「だから、近いうちに直人くん?だっけ?」
「うん」
「合わせてくれないか?」
「わ、わかった」
直人の知らないところで話が勝手に進んでいた。
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