第33話

 俺と麻里奈は電車に乗って、隣町の駅に向かっている。


「この時間だと、人少ないねー」


「まだ会社は休みじゃないからね」


「そーなんだー」


 そう言って、麻里奈は辺りをキョロキョロと見ている。


「どうしたの?」


「なんか視線を感じるような・・・」


 そう言われると、確かに視線を感じるような気がする。視線の方を向くと、天野さんがいた。俺は、ポケットからスマホを出して


「(直人)なんでいるんですか?」

と送った。


「(天野)大学に行く途中だったんだよ〜」


 流石に、意図的ではなかった。だからと言ってそんなに俺と麻里奈のことを見るとは・・・。


「(直人)あんまりジロジロと見ないでください」


「(天野)ごめん、ついつい見ちゃった」


 そう送られてくると、天野さんは俺と麻里奈の方を見なくなった。そして、次の駅で降りて行った。


「視線を感じなくなった気が・・・」


「俺のバイト先の人に見られてたみたい」


「そーだったんだー」


 そう言って、麻里奈はバックからスマホを取り出す。


「写真撮らない?」


「いいけど、どうしたの?」


「直人との思い出をたくさん残したいなーって」


「そ、そうなんだ」


 俺は、好きな人にそう言われてとても嬉しかった。俺も麻里奈との思い出をたくさん残したい。


「いや?」


「と、撮りたい」


 俺と麻里奈は、内側のカメラでツーショット写真を撮った。


「いい感じに撮れたー」


「俺にも送ってほしいな」


「いいよー」


 麻里奈は写真をメッセージに送ってくれた。俺はスマホに保存し、お気に入りのフォルダーに入れた。


「できたー」


 そう言って、麻里奈が見せてきたのはツーショット写真しか入っていないファイルだった。


「こ、こんなの作ったの?」


「こんなのとか言わないでよー、私と直人の思い出なんだから」


「ご、ごめん」


 そのファイルをよく見ると、渋谷で撮ったプリクラが保存されてた。


「プリクラも保存したの?」


「そー、菜々子に全部取ってもらった」


「そうだったんだ」


「直人にも送るね」


 そう言って、プリクラが大量に送られてきた。俺と麻里奈のトーク欄が一気に加工された写真だらけになった。自分の目の大きさや唇の色が女の子みたいでとても見てられない。


 そんなことを思っていると、降りる駅に電車が止まった。俺と麻里奈は慌てて席から立ち、電車から降りた。


「乗り越すところだったねー」


「そうだったね」


 そう言って、改札を出た。改札を出ると、平日にも関わらず多くの人で駅の中は賑わっていた。俺は麻里奈の手を握った。


「直人から握ってきたの、初めてだね」


「そうかな?」


「うん、すごく嬉しい」


「よ、よかった」


 俺は思わず、心の声が漏れてしまった。


「じゃあ、行こっか」


 そう言われ、俺と麻里奈はショッピングモールの中に入った。ショッピングモールの中は、クリスマスから完全にお正月に向けたムードに変わっていた。


「もうお正月って感じだねー」


「そうだね」


 そんなことを言いながら、俺と麻里奈はアクセサリーショップに入った。


「こんなのとかどうかな?」


 俺は、シンプルなデザインのネックレスを指差した。


「うーん、確かこういうの持ってたような気がするんだよねー」


「そ、そっか」


「違うところで見ようかな」


 そう言って、違うアクセサリーショップに入った。


「うーん」


 麻里奈はショーケースに入った黒い革財布を見つめていた。


「どうしたの?」


「これにしようかな・・・」


「いいんじゃない」


「でも、新しいのに変えちゃったかな?」


 とても難しい顔をして考えている。


「お兄ちゃん、いつもボロボロになったLVの長財布、使ってたから・・・」


 大学生でLVの財布を持っているということは、相当お金を持っているのだろう。


「妹からもらうものはどんなものでも喜んでくれると思うよ」


 一人っ子の俺が言えることではないが、家族からもらうものはどんなものでも嬉しい。兄弟でもそれは同じだろう。


「そ、そうかな?」


「そうだと思うよ」


「じゃあ、これにしようかな」

 

 そう言って、麻里奈は店員さんを呼んだ。俺は、違うショーケースを眺めていた。すると、


「在庫がないって言われたー」


「そうなんだ」


 ショーケースに入っているのは売り物ではないのか?と疑問に思った。


「違うところに行こー」


「そ、そうだね」


 プレゼント選びはかなり難航しそうな気がする。












 



 

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