第七章
第31話
十二月二十六日の午後二時、俺はバイト先のコンビニのバックヤードで制服に着替えていた。昨日、俺はあまりに色々なことがあったから疲れ切っていた。
「はぁー」
俺は、不意にも大きなため息をついてしまった。
「どうしたの?大きなため息なんてついちゃって」
と一緒に着替えていた天野さんが聞いてきた。
「実は昨日・・・」
俺は、両親に彼女の存在がバレてしまったことと、彼女の友達に問い詰められたことを天野さんに伝えた。
「付き合って早々、大変だったんだねー」
「まあ、そんなに厄介なことにならなかったのでよかったですけど・・・」
「彼女の両親に会ってないだけまだマシだね」
天野さんの言葉がとても重たく俺にのしかかる。
「実は、近いうちに彼女の両親にも挨拶するかもしれないんです」
「そんな時はなんとかなると思うしかないよー」
急に天野さんは楽観的な考えになる。
「それでうまくいけば困らないですよ」
「でも、彼女優しいんでしょ?」
「めちゃくちゃ優しいです」
麻里奈の優しさは、並大抵のものでは無いだろう。
「じゃあ、彼女が間に入ってくれるよ」
確かに、松山さんと喫茶店で話した時、麻里奈が間に入ってくれたから会話が成立していたと言っても過言ではない。
「確かにそうですね」
「まあ、そんなに難しく考えなくてもいいんじゃない?」
「そうします」
そう言って、俺はバックヤードを出た。そしてレジに入った。
レジに入っていると、隣で暇そうにしていたジェームズが
「スズキクンノクリスマスデート、ミマシタ」
と言ってきた。
「どう言うこと?」
俺は、ジェームズの言っている意味がわからなかった。もしかして、俺と麻里奈がデートしている時の様子を見ていたのか?
「アマノトシブヤデスズキクンノコトミマシタ」
み、見られていただと・・・。これは、天野さんに真相を聞かないといけない。そう思っていると、
「ジェ、ジェームズ。言っちゃダメって行ったでしょ!」
とジェームズの肩を両手で揺らしながら言った。
「イイジャン」
ジェームズは全く反省していない様子だ。その様子に天野さんは少しキレそうになっていた。
「天野さん、これって本当ですか?」
「ご、ごめん」
天野さんは、レジのカウンターテーブルに頭がぶつかるくらい頭を深々と下げた。俺は、あまりのことに驚いた。
「そ、そんな怒ってないですから・・・。あ、頭あげてください」
そういうと、天野さんは申し訳なさそうに頭を上げた。
「な、な、なんでもするから許してください」
かなり、天野さんは焦っている様子だ。
「だ、だから怒ってないですって」
「ほ、本当に?」
天野さんは何度も俺に確認をしてきた。そんなに怒っているように見えるのだろうか?
「本当ですって・・・」
こんなに弱々しくなっている天野さんを俺は初めて見た。そんな姿をジェームズは横で笑いながら見ている。
「ジェームズと二人で俺のこと見てたんですか?」
「う、うん。つい気になっちゃって・・・」
「でも、バイト入ってませんでした?」
「午前だけだったんだー」
「なるほど」
まあ、天野さんが俺のデートの様子が気になるということはとても共感できる。なぜなら、提案したデートプランがうまくいっているか気になって仕方がないからだ。
「ちょっと、ジェームズ来て」
そう言って、天野さんとジェームズはバックヤードに行ってしまった。俺は、しばらく一人でレジをやることになってしまった。
しばらくすると、二人はバックヤードから出てきた。
「メッセージにギフト券送っておいたから使ってね」
「え、いいんですか?」
「うん、俺とジェームズからのちょっと遅いクリスマスプレゼント兼お詫びの品」
「そんなの申し訳ないですよ」
「これで彼女といい思い出を作ってほしいなー」
「あ、ありがとうございます」
俺は、天野さんとジェームズに申し訳ないことをしてしまったと思った。
・・・
バイト先のコンビニから家に向かっている途中、俺は天野さんとジェームズから送られてきたギフト券を見た。ギフト券を見ると、一人千円ずつ、計二千円送られていた。
俺は、二人に「ありがとうございます」とメッセージを送っておいた。
アパートに着くと、黒塗りの高級セダンが止まっていた。普段、見慣れない車だからつい、見惚れていると、麻里奈の部屋からスーツを着た男の人が出てきた。そして、その男は黒塗りの高級セダンに乗り込んだ。そして、颯爽と走り去ってしまった。
も、もしかしたら、麻里奈のお父さんだったりするのかな・・・?
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