第30話

 アパートに向かっている途中、


「仲の良さそうな家族だね」

と麻里奈が言ってきた。


「そうかな?」


「だって、あんなに会話が弾んでたから」


「あれは・・・、両親がちょっと暴走気味だったからね・・・」


 そういうと、麻里奈は微笑んだ。


「直人に私の両親見せたいなー」


 俺は、麻里奈の発言に驚いた。付き合い始めたら、家族に伝えるものなのだろうか?


「ま、まだ早いんじゃないかな?」


「そーかな?直人の両親だけ知ってて私の両親が知らないって不公平じゃない?」


 そう言われてしまったら言い返せない。


「そ、そうだね」


 麻里奈の両親はどんな感じの人なのだろう?高圧的な人だったらちょっと無理かもしれない。


「近いうち、行こうねー」


「わ、わかった」


 いつその時が来るかわからないから、今からとてもソワソワしてる。そう思っていると、


「あっ、奈々子じゃん!」


 松山さんに遭遇した。


「麻里奈じゃん、デート中?」


「まあ、そんな感じ」


「じゃあ、あーしはお邪魔だから・・・」


「菜々子に言わないといけないことがあるの」


「何?」


 そういうと、麻里奈は俺の腕に抱きついてきた。


「私、直人と付き合うことになったー!」


「そ、そうなんだ」


 松山さんは少し驚いた表情をした。すると、


「麻里奈のこと泣かせたりしたら・・・」

と鋭い目つきで言ってきた。


「そ、そんなことは・・・し、しません」


「そんなに直人をビビらせないでよ」


「ちょっと話聞かせな」


 そういって、松山さんは駅の方に歩いて行った。


「ちょ、待ってよー」


 俺と麻里奈は、松山さんの跡を追いかける。追いついた先は、喫茶店だった。


 俺と麻里奈は、松山さんと向かい合って座った。俺と麻里奈がカフェラテを飲んでいると、


「鈴木は麻里奈のどこが好きになったんだ?」


 鋭い視線で聞いてきた。


「そ、それは・・・」


「はっきりしろよ。男だろ?」


「菜々子、私の好きな人をそんなに責めないで!」


 珍しく、少し強めの口調で麻里奈は言った。そんな麻里奈の姿を俺は初めて目にした。


「ご、ごめん」


 松山さんは俯いたまま何も言わなくなってしまった。


「お、俺は麻里奈の笑顔とか優しいところが大好きです」


 俺は心の底から思っていることを松山さんに伝えた。麻里奈の方を見ると、少し顔を赤くしていた。


「そ、そうか」


 松山さんは納得してくれたみたいだ。


「私も直人のこと大大大好きだよー」


「見りゃわかるって」


「今までの彼氏で一番まともそうだな」


 まとも認定されて俺は安心した。


「あの人たちと直人を一緒にしないで」


「なんで?」


「は、初めて私から好きになった人だから・・・」


 麻里奈は恥ずかしそうに言った。俺は、その言葉を聞いてとても嬉しいと思った。


「麻里奈も変わったね」

と落ち着いた声で松山さんは言った。


 松山さんはさっきと百八十度態度が変わった。


「中学の時の麻里奈は、告白されたらすぐ付き合ってたからね」


「そ、そんな昔のことはいいから」


 多分、麻里奈は告白した相手を振るということができなかったのだろう。だから松山さんは心配で俺にあんな態度をとって来たのだろう。


「鈴木、さっきはあんな態度とってごめん」


「大丈夫です。麻里奈のことが心配なんですよね?」


「そ、そういうことだ」


 松山さんともうまいことやっていけそうな気がした。


「そういえば、菜々子は彼氏とどうなったの?」


 麻里奈が聞いた。松山さんに彼氏がいたってことを初めて聞いた。


「浮気されてたみたい」


「そーなのー」


 麻里奈は、店に響き渡るような声で言った。


「そ、そんな大きな声で言うなって・・・」


「ごめん、でも浮気ってやばくない?」


「なんか元から女遊びが激しい人だったみたい」


 松山さんこそ、男を見る目がないのではないかと思ってしまった。


「菜々子はダメ男のことが好きになっちゃうよねー」


「そ、そうなのか?」


「そーだよ!」


 麻里奈は少し心配そうな顔をした。


「麻里奈が羨ましいよ」


「でしょー」


 そう言って、麻里奈は俺の肩に頭を乗せてきた。


「見せつけなくてもわかるって」


「別にしたいからしてるだけだしー」


「はー、そうですか」


 松山さんは、もうご勘弁と言わんばかりの表情をした。


「まあ、幸せならいいんじゃね」


 松山さんに俺と麻里奈の関係を認めてもらうことができた。


「菜々子にそう言ってもらえてよかったー」


「まあ、末長くにって感じ」


 そう言った松山さんはどこか嬉しそうだった。


「じゃあ、そろそろあーしバイトだから」


「えっ、麻里奈バイトしてたの!?」


「冬休みから始めた」


「そーだったんだ」


「ってゆーわけだから」


 松山さんは、千円札をテーブルの上に置いて店を出て行った。


「私たちも帰ろっか」


「そうだね」


 俺と麻里奈はやっとアパートに帰ることができそうだ。色々な意味で例年と異なるクリスマスになった。






 



 


 


 

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