第29話

 俺たち四人は、クリスマスなのに和食料理店に来ていた。店は、クリスマスなのになぜか繁盛していた。ここは、家族三人で住んでいた頃、たまに来ていたお店だ。


 案内された個室に入ると、俺と麻里奈は両親と向かい合う感じで掘り炬燵に座ることになった。


「ここは完全個室だからいいのよねー」


「変なこと言ったりしないでね」


 俺は、早めに釘を打った。


「言われなくてもわかってるわよ。ね、お父さん」


「わ、わかってるって・・・」


 母は大丈夫そうだが、父は少し怪しい。一瞬、本当に父なのか疑うくらいいつもと調子が違う。もしかしたら、誰かと入れ替わっているのか?それか、青森でおかしくなってしまったのか?


「ここのランチ美味しいのよー」


「そうなんですねー」


 さすがギャルだ。母と会って、一時間ちょっとしか経たないのにちゃんとコミュニケーションが取れている。


「私、レディースセットにしようかしら、麻里奈ちゃんは?」


「私もレディースセットにします」


「お父さんは?」


「そ、そうだな・・・」


 父は、真剣にメニューを見つめている。アドレナリンが大量に出ているからなのか、父は落ち着きがないように見える。


「直人はどうするんだ?」


「トンカツ定食かな」


「じゃあ、俺もそれにする」


 女子二人はレディースセットで男子二人はトンカツ定食にした。


 料理を待っている間、


「麻里奈ちゃんは兄弟とかいるの?」

と母が麻里奈に聞いた。


「はい、大学生の兄がいます」


「そうなのね〜」


 俺の知らないことを母がどんどん聞き出している。女性のコミニュケーションってすごいなと改めて思った。やっぱり、麻里奈のお兄さんってギャル男だったりするのかな?そんなことを思っていると


「お、お兄さんもギャル男だったりするの?」

と父が麻里奈に聞いた。父と同じことを考えていたことに少しショックを覚える。やはり、血は血で争えないのかもしれない。それにしても、なぜ声に出して聞いてしまうのだろう。言っていいことと悪いことがあるだろって。


「兄は、全然違います。私と真逆っていうか・・・」


「そ、そうなんだ」


 麻里奈が困っているじゃないか。どうすれば、父の暴走を止めることができるだろう。普段は普通の人だから暴走した時の止め方がわからない。すると


「お父さん、お酒でも飲んだら?」

と母が呆れ気味に言った。


「そ、そうだな」


 そう言って、父は瓶ビールを頼んだ。すると、すぐに瓶ビールが届いた。父は、栓抜きで栓を抜き、コップにビールを注ぎ始めた。コップがカタカタと揺れているから、こぼさないか不安だ。普段の父を知らない人が見たら、アルコール中毒の人だと思われるだろう。それか、青森に行ってからおかしくなってしまったのだろうか?


「み、みんな飲み物は大丈夫なのか?」


「ランチセットについてくるから大丈夫よ」


 そんなことを話していると、ソフトドリンクが届いた。


「じゃあ、乾杯」

と父が控えめに言った。


「「「乾杯」」」


 そう言って、各々飲み物を飲み始めた


 父はビールを飲み始めた瞬間、


「麻里奈さんは、どこは高校なの?」

といつもの感じで話した。まさか、酒がインスリンの代わりになるとは思わなかった。


「東第一高校の一年です」


「直人と同い年なんだ」


「はい、あと同じクラスです」


「そうだったんだ」

 

 さっきまで、あんなにキモいことを聞いていた父とは思えないくらい普通の会話になった。これが俗に言う飲みニケーションというやつなのだろうか。酒って恐ろしい飲み物だなと思った。


「そういえば、なんで麻里奈ちゃんは一人であのアパートに住んでるの?」

と母が麻里奈に問いかけた。


「実は、ストーカーから逃げてて・・・」


 麻里奈は、ストーカー被害に遭ってあのアパートに一人で住み始めたことを両親に話した。


「そうだったのね・・・」


「なんかあったら、直人に頼りなさい」


 父は、とても真面目な顔をして言った。しかし、先ほどの暴走で全く心に響いてこない。


「あ、ありがとうございます」


 そんなことを話していると、食事が届いた。


「じゃあ、食べましょうか」


 母がそう言い、みんな食べ始めた。



・・・



 食事を終え、店の外に出ると


「じゃあ、そろそろ帰ろうかしら・・・」


「えっ、もう帰るの?」


「だって、ここから青森まで何時間かかると思ってるのよ」


「確かに・・・」


「俺も有給は一日しかとらなかったからな」


「じゃあ、気をつけて・・・」


「ありがとね、麻里奈ちゃんも色々とありがとね」


「こちらこそありがとうございます」


 そういうと、両親は駅の方に歩いて行った。


「私たちも戻ろっか」


「そうだね」


 そう言って、アパートに向かい始めた。




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