第28話

「髪、切ったんだな」


 八ヶ月ぶりに会った父の第一声がこれだった。


「そうだけど。な、なんでいるの?」


「なんでって言われても・・・、そもそも親に向かってその口の聞き方はないだろ?」

と父が言った。


 確かにそうだが、タイミングというものがあるだろう。そもそも、なんの連絡もなく部屋に来るなんておかしくないか?そんなことを思っていると


「どうしたのー」

と麻里奈が玄関に来てしまった。


「お、ギャルが直人の部屋にいるだと・・・」


 父は少し驚いた様子だ。


「何か幻覚を見ているのかしら・・・」


 母まで変なことを言い出してしまった。


「直人さんの彼女の米村麻里奈です」


「「な、直人に彼女!?」」


 両親は声を揃えてそう言った。確かに、俺に彼女がいると言ったらこんな反応をするのもわからなくない。


「ち、ちょっと話を聞かせなさい」


 そう言って、母は玄関を上がった。父も後を追うように入ってきた。なんだか厄介なことになってきた。


 俺は、両親に紅茶を入れるためにやかんでお湯を沸かしていた。すると


「いつから、直人と付き合い始めたの?」

と母が麻里奈に聞いた。


「そんなこと聞かなくていいから」


「き、昨日からです・・・」


「「き、昨日!?」」


「麻里奈も言わなくていいから・・・」


「紅茶なんかいらないから、こっち来なさい」


 そう言われたが、俺は紅茶を入れたカップをテーブルに置いた。そして、両親と向かい合うように座った。


「米村さんはどこに住んでるのかしら?」


 母は麻里奈に対して、下世話なことを聞いてくる。親のことをこんなに恥ずかしく感じるのは初めてだ。こんな両親の姿を麻里奈に見せたくなかったと心の底から思った。


「隣の部屋に住んでます」


「「と、隣!?」」


 両親の大袈裟すぎるリアクションに少し慣れてきてしまった。親子漫才でもしているのかな?


「麻里奈さんに変なことしてないよな?」


 動揺した様子で父が聞いてきた。


「お父さん、なんてこと聞いてるの!」


 母が父を一喝した。この時限りは、母に感謝しようと思った。しかし


「してるに決まってるじゃない!」

と意味不明なことを言い始めた。先ほどの感謝は撤回しよう。


「そんなことしてないから。あと、麻里奈がいるからあんまり下品なこと言わないでよ・・・」


 せっかく付き合えたのに、こんなことで麻里奈と別れることになったら俺の心はとても傷つくだろう。


「ご、ごめん」


「わかってくれればいいんだけど・・・」


 母は、少し冷静さを取り戻した様子だ。一方で父は、手を震わせながら紅茶を飲んでいる。


「仲のいい家族ですね」


 麻里奈はそう言ったが、どこを見てそう思ったのだろう。


「こんな子だけど根はいい子なのよ」


「知ってますよ」


「そ、そうなの?」


「はい、私が鍵を無くした時に・・・」


 麻里奈は、鍵を無くして俺の部屋に泊まった時のことを両親に話し始めた。どうせ、変なことを言われると思った。すると、


「直人、やるじゃない!」

と謎に褒められた。両親の情緒が不安定すぎて不安だ。


「へ、変なことはしたのか?」


 むっつりスケベの父親が真面目な顔をして聞いてくる。


「だからしてないって言ってるでしょ」


「そうか」


 そう言って、父はまだ熱い紅茶を一気に飲み干した。普段、猫舌だから冷めるまで飲まないのに・・・。相当、おかしくなっているのだろう。


「あ、そうそう」


 母は何かを思い出したかのようにバックの中をあさり始めた。


「これを届けにきたの」


 そう言って、母が渡してきたのはカタログギフトだった。


「俺に?」


「そうよ。お父さんの会社からもらったんだけど、欲しいものがなかったからあげようかなーって」


「そうだったんだ」


「これを届けるためにお父さん有給取ったんだからね」


 そんなことで有給を使ってしまっていいのだろうか。


「クリスマスはどうせ一人だろうと思って来たけど、まさかギャルがいるとは・・・」


「お父さんは少し黙っててくれ」


 学生時代、男子校に通っていた父にとってギャルというのは少し刺激が強すぎたのだろう。


 俺は、母から受け取ったカタログギフトの中を見る。中には、食器や家電、食品などがある。俺がじーっとみていると、


「この置き時計とかいいんじゃない?」

と麻里奈が言ってきた。確かに、俺の部屋には置き時計がない。サイズ的にテーブルにおけるくらいのサイズだからちょうどいいと思った。


「じゃあ、この時計にしようかな」


「決まったみたいでよかった」


 母は、ニヤニヤしながら俺と麻里奈のことを見ている。


「な、なんだよ?」


「お似合いだなーって」


 そう言われて少し安心した。お似合いじゃないと言われたらどうしようと思った。


「こんなことしてたら、もう十二時になるじゃない」


 母に言われ、俺はスマホの画面を見た。


「本当だ」


「じゃあ、私部屋に戻りますね」


 麻里奈がそういうと


「一緒にランチに行かない?」


「え、いいんですか?」


「もちろん。ねっ、お父さん」


「い、いいんじゃないか」


 なぜか、四人でランチ会が開かれることになった。


ギャルと一緒にランチか・・・」


「お父さん、頭大丈夫?」


 ランチ会で父が暴走しないか心配だ。




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