第22話
月曜日の放課後、俺は葛西と隣町のショッピングモールに来ていた。フードコートでアイスクリームを食べていると
「なあ、米村さんとクリスマスデートするって本当?」
「本当だけど・・・」
「どこに行くの?」
「渋谷の青の洞窟ってところ」
そういうと、葛西は勢いよく席を立ち
「洋服買いに行こう!」
と言った
「お、おい待てって」
俺は、慌ててリュックを背負い、葛西を追いかけた。葛西についていくと、洋服の専門店に着いた。
「ここで洋服を買おう」
「俺、結構洋服持ってるからいいって」
「どうせ、赤のチェックシャツで行こうとしてるんでしょ?」
なんで俺が着て行こうとしてした服がわかるのだろう。変なテレパシーを俺は送ってしまったのかもしれない。
「何も言わないってことはそういうことか」
「別にいいだろ」
「米村さんがかわいそうだ」
休日にジャージで生活しているやつに言われたくないが、確かにギャルの横を赤チェックシャツを着て歩くのは変かもしれない。でも、チェックシャツ以外もちゃんと持っている。
「俺だってこういうロングコートとか持ってるけど・・・」
そう言って俺は、マネキンに着せてあるロングコートを指差した。
「そ、そうなの?」
葛西は少し驚いたような表情をした。
「そうだけど」
「じゃあ、買わなくていいや」
「はぁ、なんなんだよ」
葛西の突発的な思いつきには、いつも呆れているが今日のはいつも以上に呆れた。
「あとは・・・」
「まだ何かあるの?」
「髪型がちょっと・・・」
「そんな変かな?」
普通の人より少し髪が長いだけでそんな変ではないと思うのだが・・・。
「ここにある美容室に行こう」
俺は、葛西に連れられてショッピングモール内にある美容室にいくことになった。普段は千円カットで切っているから新鮮な気分だ。俺が席に座ってキョロキョロしていると、
「こんな感じに・・・」
と葛西が美容室の人とコソコソ話していた。
どんな感じの髪型になるのかワクワクするが、不安の方が少し大きい。
「じゃあ、切っていきますね」
そう言って、美容師さんは俺の髪を切り始めた。だんだんと眠たくなってきて、俺は寝てしまった。
「できましたよー」
俺は、美容師さんに声をかけられて目覚めた。
「こんな感じでどうですかー?」
鏡を見て、俺は驚いた。韓国のアイドルみたいな髪型になっていた。美容師さんに聞くとラウンドマッシュという髪型らしい。
「ありがとうございます」
「お客さん、写真撮ってもいい?」
「別にいいですけど・・・」
俺は、スマホで写真を撮られた。
「店のインスタに載せてもいいかな?」
「大丈夫です」
どうやら、俺はこの美容室のカットモデルになったらしい。代金を払おうとすると
「カットモデルになってくれたから半分でいいよ」
と言われた。
「いいんですか?」
「うん、久しぶりにいいカットモデルが見つかったから」
ラッキーと思っていると
「あと、このヘアオイルもあげるよ」
「いいんですか?」
「売れ残りで申し訳ないけど・・・」
俺は、通常の半額で髪を切ることができた上にヘアオイルまでもらった。。代金を払い、店を出ると葛西が驚いた表情で俺のことを見ていた。
「本当に鈴木か・・・?」
「そうだけど」
「別人だな・・・」
葛西は言葉を失っていた。そんな変なのだろうか。
「変か?」
「いや、その逆。似合いすぎて驚いてる」
俺は、葛西に初めて褒められた。いつも否定的な意見しか言わない葛西がいうのだから、多分似合っているのだろう。
「そろそろ帰るか」
「そうだな」
俺と葛西は、ショッピングモールを出て駅に向かった。駅に向かっている途中、やたら視線を感じる気がした。
「なあ、ジロジロ誰かに見られてる気がするんだけど・・・」
「お前が通ると周りの女子高生が見てるんだよ」
髪型を変えただけでそんなに人からの反応が変わるとは思わなかった。
「まさか髪型を変えただけでこんなにかっこよくなるとは・・・」
葛西がボソッとそう呟く。多分、ここまで雰囲気が変わると思っていなかったのだろう。
「学校の女子も驚くだろうな」
「そうかな?」
男女仲が悪いクラスだから、俺の髪型の変化で驚く女子はいないだろう。でも、米村さんだけには気づいて欲しいかもしれない。
・・・
最寄駅に着き、俺はアパートに向かっていた。アパートに向かっている途中も通り過ぎる人から視線を感じるような気がする。もしかしたら、自意識過剰なのかもしれない。アパートの階段を登っていると、米村さんが部屋から出てきた。そして、俺の方をじーっと見つめてきた。
「もしかして、鈴木くん?」
「そうだけど、そうした?」
「髪切ったの?」
「うん、そうだけど。変かな?」
「ううん、すごく似合っている」
俺は、好きな人にそう言われて少し嬉しかった。米村さんとのクリスマスデートがとても楽しみだ。
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