第五章

第21話

 天野さんとLINE交換をしてから二日後の日曜日、家でゴロゴロしていたら天野さんから一件のメッセージが届いた。


「(天野)こんな感じのプランはどうかな?」


 そのメッセージの後にPDFファイルが送られてきた。ファイルを開くとデートスポット一覧と一日の流れが写真と一緒に書かれていた。思っていた以上にちゃんとしたものが送られてきたから少し驚いてしまった。


「(直人)ありがとうございます」


 そう送ると、スタンプで返信が返ってきた。


 米村さんにこのPDFファイルを転送しようとした時、米村さんから一件のメッセージが届いた。


「(麻里奈)ここ行かない?」


 このメッセージの後にURLが届いた。URLをタップして開くと、天野さんのプランに書いてあった『青の洞窟』だった。


「(直人)いいよ」


「(麻里奈)やったー」


 クリスマスイブの日は、米村さんと青の洞窟に行くことになった。デートの流れが決まって少しホッとした。


「(麻里奈)ほかにどこか行きたいところとかある?」


 俺は、天野さんから送られてきたファイルに書いてあった『竹下通り』と米村さんに送った。すると、米村さんからはスタンプで返信が返ってきた。


 今まで男友達と一緒に竹下通りを行ったりしたことはあるが女子と二人っきりで言ったことがない。だから、どうなるのか予想がつかなくて少し不安だ。そんなことを考えていると、ふと今日は、午後からバイトのシフトが入っていることを思い出した。



・・・



 午後、バイト先のコンビニに行くと天野さんとジェームズがレジに居た。


「今日、鈴木くんシフトに入ってたっけ?」


「二時から入ってます」


「そうだったんだー」


 俺は、デートプランがおおよそ決まったことを天野さんに伝えようとした。すると


「そういえば、デートプランはどうなった?」

と天野さんが聞いてきた。


「天野さんのおかげでおおよそ決まりました」


「それはよかったー」


 天野さんは、少しホッとした表情を見せた。その様子を見てジェームズは少し笑っていた。


「バックヤードで着替えてきます」


「わかったー」


 俺は、バックヤードに行って制服に着替えた。そして、バックヤードのシフト表を見た。シフト表をみると、クリスマスイブとクリスマスは全く人が入っていない。天野さんとジェームズは、午前中のシフトに入っていた。


 俺は制服に着替えて、レジカウンターに入った。


「二十四日と二十五日は人が足りなそうですね」


「そーだねー、特に予定はないのにクリスマスって休みたくなるからね」


「なるほど」


 確か、店長も天野さんと同じようなことを言っていたような気がする。


「鈴木くんは休まないといけないからね」


 天野さんは、笑顔でそう言った。なんでそんなに一大イベントみたいになっているのだろう。


「べ、別にそんな大したことじゃ・・・」


「だって告白するんでしょ?」


「こ、告白!?」


 俺は、考えてもいなかったことを言われて少し驚いている。そして、告白すること前提の話になっていたことにも驚いた。


「そんなに驚くことかなー?」


「突然、告白って言うから・・・」


「しないのー?」


 天野さんは、問い詰めるかのように聞いてきた。


「まだ早いかなって・・・」


 俺は、今思っていることをそのまま天野さんに伝えた。


「そうなんだー」


 天野さんは、少し渋そうな顔をしている。何か変なことを言ってしまっただろうか。


「鈴木くん、好きっていう感情があるなら告白した方がいいと思う」


 とても真剣な表情でそう言った。そんな天野さんの表情は初めてだ。


「そうですかね?」


 俺が少し考え込んでいると

「アタッテクダケロ」

とジェームズはガッツポーズをしながら言った。


「砕けちゃダメだって」


 天野さんは少し焦った表情をした。


「と、とんかく好きなら告白はした方がいいと思うよ」


「わ、わかりました」



・・・



 バイトが終わり、アパートに向かう途中、俺はずっと米村さんのことを考えていた。米村さんのことを考えれば考えるほど、好きという気持ちが強くなってくる。もうこの気持ちを抑えることは誰もできないだろう。


 米村さんの恋人になりたいという思いも強いが、今の関係が壊れてしまうと考えるとなかなか告白することを躊躇ってしまう。どんな人が見てもかなりのヘタレだと思われるだろう。自分でもヘタレだと思っているのだから。そんなこと思っていると


「アタッテクダケロ」


 ジェームズに言われた言葉が脳内を過ぎる。確かに時には、そういう気持ちが大切なのかもしれない。クリスマスデートで告白しよう。俺は心に誓った。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る