第20話

 米村さんと映画を見た翌日の放課後、俺は久しぶりにコンビニでバイトをしている。今日は、天野さんとジェームズのがシフトに入っている。しかし、まだジェームズは来ていなかった。


 レジで暇をしていると、


「鈴木くん、久しぶりだね」

と品出しをしていた天野さんに声をかけられた。


「お久しぶりです」


「鈴木くんがいなかったから結構大変だったよー」


「そうなんですか!?」


「実は、店長が・・・」


 天野さんの話を聞いて驚いた。店長が交通事故に遭って入院したみたいだ。天野さん曰く、自転車で自宅に向かっている途中に一時停止を無視した車に追突されたらしい。


「だから店長の奥さんが代わりをやってるんだけど、慣れないことをやってるからちょっと大変そうなんだよね」


「そうなんですね」


 そんな会話をしていると、


「コンニチワ」

と言ってジェームズが店に入ってきた。


「ジェームス、遅かったじゃん。どうしたの?」


「ワスレモノシマシタ」


「そうだったのか」


「キガエテキマス」


 そう言って、ジェームズはバックヤードに行った。


「ジェームスもここにきて結構経ちますね」


「そうだねー。だいぶ仕事に慣れてきたみたいだから少し安心してる」


「そうなんですね」


「でも、タバコとか覚えてないから少しそこら辺は見てあげないといけないかもしれない」


「種類が多いですからね」


「そうなんだよね」


 そんな会話をしていると、店の中に米村さんが入ってきた。


「鈴木くん、今大丈夫?」

と声をかけられた。


 シフト入ってるからあんまり暇ではないと思っていると


「抜けてもいいよ」

と天野さんが言ってきた。


「でも・・・」


「あんまり女の子待たせるなって」


「ありがとうございます」


 俺は、天野さんの言葉に甘えてレジを抜けた。俺と米村さんは店の外に出た。


「どうした?」


「クリスマスイブって空いてる?」


 米村さんは、少し不安そうな感じで聞いてきた。


「空いてるけど・・・」


「本当!?一緒にどこか行かない?」


「俺でいいの?」


「うん、鈴木くんがいいの」

と上目遣いで聞いてきた。


 その仕草と言葉に俺は、ドキッとしてしまった。


「わ、わかった」


「じゃあ、後でどこ行くか決めよ」


「いいよ」


「じゃあ、またね」


 そう言って、米村さんは家の方に向かって行った。


 俺が、店の中に入り、レジに戻った。


「どんな話してたの?」


「べ、別に大したことじゃ・・・」


「気になるなー、工学部は恋の話に飢えてるから聞きたいなー」


「クリスマスイブの日に出かけようって言われて・・・」


「それってデートじゃん」


 店中に響き渡る声で天野さんは言った。


「あんまり大きな声で言わないでください」


「ごめんごめん、ちなみに付き合ってるの?」


「まだ付き合ってないです」


「そうなの!?どう見たって女の子の方は鈴木くんに惚れてるのに」


「そうですか?」


「そうじゃなかったらデートに誘わないでしょ?」


 確かに、女子からデートに誘うってことはよっぽどのことがない限りないだろう。


「男子校出身の俺でもそう思うんだけど・・・」


「米村さんは気を使っているんですよ」


「そうなの?」


 俺は、一度米村さんを家に泊めた時もことを天野さんに話した。


「なるほどねー」


 天野さんは、少し考え込んでいる。


「まあ、それもあるかもしれないけど嫌いな男の部屋には入らないと思うよ」


 確かにそうかもしれない。よっぽどの事とはいえ、異性の部屋には上がらないかもしれない。


「そうですね」


「それでデートはどこに行くの?」


「これから決める予定です」


「それだったらプラン考えてあげるよ」


 今までデートをしたことがない俺には、とてもありがたい言葉だった。


「いいんですか?」


「うん、色々と考えてあげるよ」


「ありがとうございます」


 そういうと、天野さんは少し不安そうな顔をした。


「どうかしました?」


「ど、どうもしないよ、あっお客さん来たよ」


 そういうと、天野さんは品出しに戻った。


 しばらくすると、ジェームズがレジに来た。


「アマノトナニハナシテタ?」


「クリスマスのデートプランについて・・・」


「ナルホド」


 そういうと、それ以上聞いてくることはなかった。


 今日は、なぜかいつも以上にお客さんが多くてあまり休憩に入ることができなかった。いつもなら、お客さんの波が途切れると、結構楽ができるが波が途切れることがなかった。この波は、俺がいるうちはずっと続いていた。


 バイト終わり、バックヤードで着替えを終え、帰ろうとすると


「鈴木くん、LINE教えて」

と天野さんが声をかけてきた。


「いいですよ」


 俺はポケットからスマホを出し、天野さんとLINEを交換した。


「近いうち、考えたプラン送るから」


「ありがとうございます」


「じゃあね」


 そう言って、天野さんはバックヤードから出ていった。俺もバックヤードから出て家に帰った。

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