第17話
「葛西くんだっけ?」
「そ、そうです」
葛西は、なぜか敬語になっていた。米村さんが
「葛西くんは、私が隣の部屋に住んでることを知ってるの?」
と耳元で囁いてきた。
「知ってるよ」
「ならいいや」
米村さんは、少し安心したような感じで言った。何がいいのだろうか。
「なんで来たの?」
「カレー作り過ぎちゃったからいるかなーって・・・」
米村さんが作った料理なら食べたい。
「欲しい」
「葛西くんも食べるかな?」
「どうだろう?」
葛西は、慌ただしくリュックの中に教科書を入れていた。
「葛西くん、ご飯食べてく?」
「お、俺は、大丈夫です」
葛西は、少し挙動不審な感じでいつもより変な感じだ。その様子を見て米村さんは、少し笑っていた。
「じゃあ、また明日な」
そう言って、葛西は俺の部屋から出て行った。そんなに急いで帰らなくてもいいのにと思いながら、俺は見送った。
「じゃあ、私の部屋来て」
「わ、わかった」
そういうと、米村さんは部屋に戻って行った。俺は、少しローテーブルの上を綺麗にした。そして、部屋の戸締りをした後、米村さんの部屋のインターホンを押した。
すると、すぐに米村さんが来た。
「インターホン押さなくてもよかったのに・・・」
「なんとなく押してみた」
「寒いから上がって」
そう言われて、俺は米村さんの部屋に入ってローソファーに座った。相変わらず、米村さんの部屋の中は綺麗だ。しかし、いつも何も置いていないローテーブルの隅っこに教科書とノートが置いてあった。多分、さっきまで勉強をしていたのだろう。
「ちょっと散らかってるかもしれないけど・・・」
「俺の部屋より綺麗だよ」
「そーかな?鈴木くんの部屋も結構綺麗だったと思うよ」
「さっきまで葛西がいたから少し荒れてるかも」
「なるほどねー」
そう言いながら、米村さんはカレーを鍋で温めている。
「お待たせー」
そう言って、米村さんはお皿に溢れるくらい盛られたカレーライスをテーブルの上に置いた。
「ありがとう」
俺は、こぼさないように自分の前のカレーライスを持ってくる。そして、米村さんも自分の分を持ってきてローソファーに座った。
「「いただきます」」
そう言って、俺と米村さんは横並びになってカレーライスを食べ始めた。
「すごく美味しい」
「よかったー」
「これって中辛?」
「ううん、辛口。辛かった?」
「ううん、ちょうどいい辛さだよ」
米村さんが辛口のカレーを食べるというのは、少し意外だ。勝手なイメージだが、甘口カレーを食べているイメージだった。
「こう見えて、いつもお店でカレーを食べる時は五辛なんだよねー」
五辛のカレーを食べる人がいて少し驚いた。いつも店で食べる時は、二辛止まりだ。二辛でも十分な辛さがあると思う。
「そうなんだ」
「久しぶりに作ったからどうかと思ったけどそれなりの味になってよかったー」
「お店より美味しいよ」
「そうかな?」
お世辞抜きでお店より美味しい。そんな気がする。俺と米村さんは、黙々とカレーライスを食べた。
「「ごちそうさまでした」」
カレーライスを食べ終えて、スマホをポケットから取り出そうとすると
「そういえば、葛西くんと何してたのー?」
と聞いてきた。
「勉強してた」
「葛西くんって勉強するの?」
葛西は、勉強してない人という認識になっていて少し面白かった。
「今日は、珍しくちゃんとやってたよ」
「そーなんだ」
「米村さんも勉強したの?」
「一日目の科目の勉強はやったよー」
一日目は、歴史総合と数学と生物基礎がある。かなり、暗記が多いから四日間あるうちの一日目が一番きついかもしれない。
「歴史とか覚えられた?」
「ワークの内容は一通り覚えたよー」
暗記科目が苦手な俺は、なんで覚えられるのか疑問に思った。
「文系脳だから覚えるのは得意なんだよね」
「すごいね」
「そんなことないよ」
米村さんは、謙遜している。俺は、もっと誇っていいことだと思った。そんなことを思っていると
「テスト終わったら、なんか遊んだりするのー?」
と聞いてきた。
「テスト明けは、バイトが入るかもしれない」
「そーなんだ」
米村さんは、そう言いながら、食器をキッチンに持って行って、洗い始めた。
多分、この後米村さんは勉強をするだろう。あんまり、長居しても良くないと思い、俺は
「そろそろ部屋に戻ろうかな」
と言った。
「わかったー」
「じゃあ、テスト頑張ろうね」
「うん、じゃあね」
そう言って、俺は米村さんの部屋を出た。自分の部屋に戻り、提出物の確認をする。すると、物理基礎のワークがない。あたりを見渡したが見つからない。物理基礎は最終日だから明日影響があるわけではないが、少し焦っている。もしかしたら、葛西が持って行ってしまったかもしれない。俺は、葛西に電話をすることにした。
「もしもし葛西?」
「そうだけど、どうした?」
「俺の物理基礎のワーク持ってない?」
「そんなわけないでしょ・・・」
そう言いつつ、電話越しでリュックを漁る音がする。
「ごめん俺が持ってた」
「じゃあ、明日学校で返して」
「わかった、本当にごめん」
葛西は、とても反省をしている様子だった。
「じゃあな」
そう言って、俺は電話を切った。次の日は四日間あるテストの初日だからいつもより早くベットに入った。
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