第四章

第16話

 期末テスト前日、この日は日曜日だから一日中、一人で集中して勉強ができると思っていた。しかし、午後から葛西と勉強会をすることになった。しかも、俺の部屋で・・・。


「お邪魔しまーす」


 馬鹿みたいにうるさい声で葛西は、玄関を上がった。一応、ボロアパートではないから騒音はそれなりに大丈夫だと信じているが、あんまりうるさくされたくない。


「あんまり、うるさくするなよ」


「わかってるって」


 俺は、初めて葛西を家の中に入れた。高校の同級生が俺の部屋に来るのは、葛西が二人目だ。ちなみに最初に来たのは、米村さんだ。


「思ったより、綺麗だな」


「まあな」


 俺は、米村さんを泊めた日から部屋の掃除をちゃんとやると心に誓ったから、それなりに綺麗だ。


「ソファとかないの?」


「欲しかったけど、高くて諦めた」


 俺のリビングには、テレビとカーペットの上にローテーブルがあるだけだから少し寂しい感じかもしれない。


「そうだ、これ持ってきたから」


 そう言って、葛西が渡してきたのは、二リットルのペットボトル飲料だった。しかも、二本も持ってきた。


「一人一本な」


「あ、ありがとう」


 こんなに飲むのかと思いながら、俺と葛西はラッパ飲みし始めた。


「たまらんなー」


「おっさんみたいなリアクション取るなよ」


「直人が子供なだけだよ」


 どの口が言ってるんだよと思った。普段、葛西の方が子供っぽいのに。


「そろそろ勉強するか?」


「えー、もう始めるのー?」


 勉強するために俺の部屋に来たんじゃないのか。


「まだ、いいじゃん」


「明日テストだぞ」


「だいじょ・・・ばない」


 葛西は、少し慌てた様子だ。やっと危機感が来たかと思ったが、


「明日提出の課題が終わってない」


 テスト勉強以前の問題だった。まあ、ゲームで遊ぶよりかはいいだろう。


「よーし、始めるぞー」


 俺と葛西は、横並びになって胡座をかいて机に向かっている。


「なあ、このワークの答え持ってる?」


「持ってるけど・・・」


「ちょっと貸してー」


 葛西は勉強ではなく、ワークを書き写す作業をしていた。しかし、この作業はとても大変だ。三十分で終わるような量ではない。ちなみに俺は、毎日コツコツとやっていたから、提出物は全て終わらせている。


「こんなの終わるわけないじゃん」


「俺は、ちゃんと終わってるよ」


 俺は少し、葛西のことを揶揄ってみた。なぜなら、どんな顔をするのか少し気になったからだ。


「そうか」


 葛西は余裕がないのか、俺の煽りにびくともしなかった。こんな葛西の姿を見て、今までテスト前日はどんな生活をしていたのか少し気になった。そんなことを思いながら、数学の問題集を解いていた。


「なあ、これってなんでこうなるの?」


 葛西は、三角比の応用問題を指さしていた。応用といっても、そんなに難しくないが・・・。


「ここの高さを求めたいから・・・」


 俺は、葛西でもわかるように問題の解き方を教えた。


「なるほど・・・」


「本当に理解した?」


「う、うん」


 多分、理解していないだろう。まあ、赤点を取らないように葛西には頑張ってもらおう。


「そういえば、何時までいるの?」


 葛西の家は、俺の家から電車で三十分くらいかかる田舎だから、あまり遅いと葛西の両親が心配するだろう。


「そうだなー、暗くなる前に帰ろうかな」


「わかった」


 俺は、あと二時間くらい葛西と勉強をする。


「いつもテスト前ってこんな感じで勉強してるの?」


「一応してるよ」


「偉いな」


「葛西が勉強してないだけだよ」


「俺だって、高校受験の時はちゃんと勉強したよ」


 本当なのか。さっき、三平方の定理が怪しかったけれど。


「そ、そうなんだ」


「疑ってるのか?」


「そんなんじゃないけど・・・」


「俺、ここの高校滑り止めだったんだよね」


「そうだったんだ」


 俺は、どう反応していいのかわからない。滑り止めということは、入学してすぐの時は、俺より頭が良かったかもしれない。


「目標があったから中学の時は頑張れたけど、今は目標がないから頑張れないな」


「そっか」


 多分、好きな人が行った高校が第一志望だったのだろう。少し、重たい空気になってしまった。


「勉強するぞ」


「いっけね、課題が終わってねーや」


 テスト勉強を再開した。二人きりでここまで集中して勉強に取り組めたのは、初めてかもしれない。


 解いた問題の丸つけを終えて、時計を見ると午後五時を過ぎていた。葛西は、まだ帰らないでいいのだろうか。そんなことを思っていると、家のインターホンが鳴った。


「誰か来た!受信料の回収かな?」


 葛西は、少し嬉しそうだ。まあ、本当に受信料の回収だったら少し面白いかもしれないが、俺はちゃんと払っている。


「撃退してあげようか?」


「ちゃんと払ってるって」


 そんなことを言いながら、ドアを開けるとメガネをかけた米村さんが立っていた。


「鈴木くん、今暇?」


「ちょ、ちょっと待って・・・」


 俺が少し戸惑っていると、奥から葛西が出てきた。


「米村さん・・・?」


 葛西は、少し驚いている様子だ。


 









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