第14話

 俺と米村さんは、ファミレスに入った。平日の午後六時過ぎだったが、それなりに人がいた。店員さんに窓側の席を案内されてそこに向かい合うように座った。


「店の中はあったかいね」


「そうだね」


 俺が座ったところは、隙間風が少し入ってきて寒かった。

 

「どれにするー?」


 そう言って、メニューを見せてきた。


「そうだな・・・」


 悩みに悩んで、俺はミートソーススパゲッティにした。米村さんは、ドリアを頼んだ。


 料理を待っている間、ドリンクバーからコーヒーを取ってきて飲んでいた。


「鈴木くんってブラックコーヒー飲むの?」


「飲むけど・・・」


「すごいね」


 普段から、ブラックコーヒーを飲んでいるから何がすごいのかよくわからない。


「どうして飲めるの?」


 そんなこと聞かれたって、自分でもわからない。まあ、中学の時あんなことがあってから飲み始めた気がする。


「コーヒーより苦い経験をたくさんしてるからかな」


 そういうと、米村さんは気まずそうな顔をした。


「変なこと聞いちゃってごめん」


 なぜ、謝られているのか理解できない。


「なんで謝るの?」


「だって、苦い記憶とか思い出させちゃったかなって」


「大丈夫だよ」


 そう言いつつ、あの時のことを思い出してしまった。



・・・



 中学の時、俺には好きな人がいた。その人は、橋本エリカ。橋本さんは学校のマドンナ的存在だった。学校にいる男子は、みんな見惚れていただろう。中学二年の時、クラスが一緒になり、席も隣になった。


「直人くん、よろしくね」


 俺は、その一言で恋に落ちた。とても単純な男だ。


「よ、よろしく」


 その後、橋本さんと修学旅行の実行委員をやることになった。実行委員を一緒にやるうちに、好きという感情が抑えきれなくなってしまった


 そして、実行委員の集まりの帰り、俺は橋本さんに告白することを決めた。信号待ちをしているときに


「橋本さん、実はずっと好きだったんだ」


「そ、そうだったんだ」


「だから、付き合ってください」


 俺は、勇気を振り絞って告白をした。


「鈴木くんのことは、恋人として見れない」


 そう言って、橋本さんは一人で信号を渡った。俺は、ショックでしばらくその場に立ち尽くしていた。


 翌日、学校に行くと、学校中の人から冷ややかな目で見られた。多分、俺が橋本さんに告白したことが広がったのだろう。俺は、完全に学校での居場所を失った。こんなことがあったから、中学の同級生が一人もいないこの高校に進学をした。そして、なぜかコーヒーを飲むようになった。



・・・



「鈴木くん、顔色悪いけど・・・」


「そうかな」


 過去のことを思い出していたら、少し気分が下がってしまった。


「なんかあったら、なんでも言ってね」


 米村さんは、とても優しい声でそう言ってきた。


「ありがとう」


 そんな話をしていたら、料理が届き、俺と米村さんは一緒に食べ始めた。ドリアがとてもあついからか、米村さんはとてもゆっくり食べている。


「そ、そんなに見ないでよ」


 米村さんは、恥ずかしそうにそういった。


「そんなに熱かった?」


 そう聞くと、米村さんはドリアの乗ったスプーンを俺に向けてきた。


「どうしたの?」


「あーん」


「そ、そういうのは・・・」


「恥ずいから早くして」


 俺は、米村さんからドリアを食べさせてもらった。


「熱いね」


「そうでしょ」


 飲み込んでから思ったが、これって間接キスってやつだよな。そう思うと、少し恥ずかしい。米村さんの方を見ると、少し顔が赤くなっている。


「顔赤いけど・・・」


「そ、そうかな」


 米村さんは、明らかに動揺している様子だった。


「間接キスしちゃったなーって思っただけ」


 米村さんは、ボソッっと言った。そう言われて、俺はもっと顔が熱くなった。


「飲み物とってくるね」

 

 俺は、冷たい飲み物を飲んで物理的に顔を冷やすことにした。コップの中に、たくさん氷を入れて、コーラを注いだ。


 席に戻って飲み始めたが、思った以上に冷たくて少し肩がプルプルと震えている。こんなに氷を入れなければよかったと思っていると、


「これあげる」

と米村さんが俺の前にホットカフェラテを置いてくれた。


「いいの?」


「うん、間違えて入れちゃったやつだから」


 俺は、米村さんからホットカフェラテをもらって飲み始めた。


「甘い?」


「そうだね」


「私は、まだまだ子供なんだなー」


 そんな話をしていると、午後七時を過ぎていた。


「そろそろ帰ろうか」


「そうだねー、ちょっとトイレ行ってくる」


 そう言って、米村さんは席を立った。俺は、会計を済ませて外で待っていることにした。


「お待たせー、いくらだった?」


「いいよ」


「そーゆーわけには・・・」


「いつも、出してもらってばかりだから」


 米村さんには、いつもタダでお弁当を作ってもらっている。そして、さっきはコーンポタージュを買ってくれた。


「それとこれは・・・」


「とにかくいいから」


「あ、ありがとう」


 米村さんは、少し遠慮した感じだった。


 その後、俺と米村さんは、暗い夜道を歩きながら、アパートに向かった。




 

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