第13話

 昼休み、葛西と屋上でお弁当を食べていると、米村さんからメッセージが届いた。


「(麻里奈)今日の放課後って空いてる?」


「(直人)空いてるよ」


「(麻里奈)図書室で勉強しない?」


 俺は、少し考え込む。なぜなら、米村さんと図書室で一緒に勉強していたら、変な噂が立ってしまわないかな。そんなことを考えていると


「珍しく、難しい顔してるじゃん」


「米村さんから、こんなメッセージが届いて・・・」


 俺は、米村さんとのトーク画面を葛西に見せた。


「図書室で一緒にやればいいじゃん」


 葛西は、軽々しく言った。


「でも・・・」


「お前が一緒にやりたいなら行って来い」


 そう言われて俺は、


「(直人)いいよ」

とメッセージを送った。


「(麻里奈)私、掃除があるから先に図書室行ってて」


 俺は、スタンプで返した。米村さんって、見た目はギャルだけど、中身はとても真面目な人だよな。



・・・



 放課後、俺は図書室の中に入った。テストまで二週間を切っているが、図書室の中には司書さん以外はいなかった。人目を気にする俺は、少し安心した。


 机に筆箱と教科書を置いて、勉強を始めた時、


「遅くなっちゃったー」

と言って、米村さんが隣に座ってきた。


 昨日、米村さんのことが好きと自覚したからか、いつも以上に心拍数が上がっている気がする。米村さんがするすべての仕草にドキッとしてしまう。


「なんの勉強してたー?」


「生物基礎をやり始めたところ」


「私も生物基礎やろーっと」


 そう言って、米村さんは茶色い皮の鞄から生物基礎の教科書とワークを出した。そして、黙々と勉強をし始めた。


 俺も勉強を再開したが全くと言っていいほど集中できない。これほど集中できないのは初めてだ。


「ねえ、これわかる?」

と言って、教科書の問題を指さして聞いてきた。


「これは・・・」


 そう言って、俺は自分のノートを米村さんに寄せる。すると、米村さんの左手が俺の右手に群れた。


「「あっ」」


 二人の声が重なり合った。


「ごめん」


「だ、大丈夫。あっ、解き方わかったかも」


 そう言って、米村さんは問題を解き始めた。もしかして、嫌われてしまったかな。少し気まずい空気が流れる中、俺は気分転換に英語の勉強をすることにした。


 先生が授業でくれたテスト対策のプリントを解き始めたが、全くわからない。明らかに、うちの高校のレベルではない問題だと思う。そんなことを思っていると、


「これ、多分違うよー」

と米村さんが言ってきた。


「そうなの?」


「これだと・・・」


 そう言って、正しい受動態の英文法の書き方を教えてくれた。


「ありがとう」


「どーいたしまして」


 俺は、米村さんのおかげでその先の問題も解けそうな気がした。そして、教えてくれたってことは、多分俺のことを嫌っているってことはなさそうだ。少し安心した。


 その後、途中で休憩することなく勉強を続けた。昨日の葛西と勉強した時の十倍くらい勉強が捗った。


 英語のプリントをすべて解き終えて、背伸びをしていると、


「そろそろ帰ろうか」

と米村さんが言ってきた。


「そうだね」


 外を見ると、夕陽が沈んで真っ暗になっていた。教科書と筆記用具をリュックにしまって図書室を出た。


 校舎を出ると、冷たい北風が俺と米村さんを吹きつけた。


「俺、自転車とってくるね」


「わかったー、校門で待ってるね」


 俺は、チカチカと点滅している明かりを頼りにして、自転車置き場に行った。寒くて手が振るているから、なかなか鍵穴に鍵が入らない。


 自転車を押しながら、米村さんがいる校門に向かった。門を出ようとした瞬間、首筋に何か温かいものが当たった気がする。後ろを振り向くと、米村さんが俺の首筋にコーンポタージュの缶を当てていた。


「温かい?」


「どうしたのこれ?」


「鈴木くんが自転車とりに行ってる間に買ってきた」


「そうだったんだ」


「公園のベンチで一緒に飲もうよ」


 俺と米村さんは、学校の近くにある公園ベンチに座ってコーンポタージュを飲み始めた。そういえば、お金を払ってなかった。


「これいくらだった?」


「いいよ、私が勝手にしたことだから」


「そういうわけには・・・」


「いいから」


 キッパリと切られてしまった。


「米村さんは優しいね」


 そういうと米村さんは、顔を少し赤くした。


「そんなに褒めないでよ」


「だって本当のことじゃん」


「誰にも優しいわけじゃないよ」


「えっ、そうなの?」


 こんな俺にも優しくしてくれているから、みんなに優しくしていると思っていた。


「当たり前じゃん、苦手な人にはあからさまに態度に出ちゃうし」


「そうなんだ」


 そんな姿を見たことがないから少し驚いた。


「そんな私のこと嫌いになった?」


 少し震えた声で米村さんは聞いてきた。


「嫌いになってないよ」


 俺は、むしろ嬉しかった。なぜなら、特別扱いされているという優越感を感じられるからだ。


 俺は、あまりの寒さにコーンポタージュをすぐに飲み干してしまった。


「思ったより寒いね」


「そうだねー、そろそろ帰ろっか」


 ベンチから立ち上がり、家に向かった。


「鈴木くんは、夕飯どうする?」


「特に決めてないよ」


「じゃあ、一緒にファミレス行かない?」


「いいよ」


 俺と米村さんは、北風に吹かれながら、ファミレスに向かった。




 



 


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