第10話
アパートに着き俺は、自転車置き場に自転車を置いた。階段を上り、部屋に入ろうとすると
「鈴木くん!」
と声をかけられた。
後ろを振り返ると、すっぴん姿の米村さんがいた。
「どうしたの?」
「うちに来てくれない?」
「えっ、なんで?」
「話したいことがあるから」
「わかった」
話したいこととはなんだろう。俺は、疑問に思いながら米村さんの部屋に上がった。上がるとソファーに座って待っててと言われ、座った。
米村さんは、キッチンで紅茶を淹れている。そして、淹れてくれた紅茶をガラステーブルの上に置いた。
「どうぞー」
「ありがとう」
俺は、紅茶を飲んだ。飲んでいると、米村さんは、俺の隣に座ってきた。しばらく沈黙が流れた。すると
「さっきは、ありがとう」
と米村さんが言った。
「別に大したことはしてないよ」
「まさか、哲也に見つかるとは思わなかったなー」
ストーカー被害から避けるために引っ越して来たのに見つかってしまうなんて米村さんはつくづくついてない。
「上坂は、どこの高校に通ってるの?」
「稲川総合高校ってところ」
稲川総合高校は、少し変な人が多いと聞いたことがあったが本当みたいだ。
「高校にストーカーのことについて連絡したことってある?」
「ない」
米村さんは、弱々しい声でそう言った。こんなに怯えている米村さんは、今までに見たことがない。顔を見ると、涙を浮かべていた。
「大丈夫?」
「ごめん、迷惑かけちゃって・・・」
俺は、なんて声を掛ければいいかわからなかった。とりあえず、ポケットに入っていたハンカチを渡した。
「ありがとう」
そう言って、俺のハンカチで涙を拭いている。相当、嫌な思いをして来たのだろう。俺は、上坂哲也に強い怒りを覚えた。
「ごめん、こんな姿見せちゃって」
「謝らないでよ、米村さんが悪いわけじゃないから」
「だって、迷惑かけてるから」
「迷惑だと思ってないよ」
「本当に?」
「うん、困ったときは言ってね」
そう言うと、米村さんは大きな瞳から大粒の涙を流し始めた。俺は、ただ横にいることしかできなかった。自分の無力さを痛感させられた。しばらくすると
「泣いたからか少し気持ちが楽になったかも」
「それならよかった」
泣き止むと、いつもの米村さんに戻った。やっぱり、米村さんは笑っている顔が一番似合う。
「なんであんな人と付き合ったんだろうなー」
「その時はいいと思ったんじゃない?」
「そーかも、でもその時の私って変だね」
そう言って、米村さんは笑う。すると、米村さんのスマホがテーブルの上で音を鳴らしながら、ブルブルと揺れていた。米村さんは、スマホを手に取って電話をし始めた。
「もしもし?」
米村さんは、電話をしながら、寝室に入っていった。俺は、冷め切った紅茶を飲んだ。少し、渋みが増した気がした。
俺は、テレビ台の上に置いてある写真が気になった。俺は、手に取って写真を見る。その写真に写っていたのは、中学校の制服を着た米村さんと松山さんが写っていた。まだ、二人とも髪の毛が黒く、ギャルという感じはない。そんなことを思っていると、米村さんが寝室から出てきた。
「ちょっ、見ないでよー」
と言って米村さんは、手に持っていた写真を奪うように取った。
「中学の時の写真?」
「そーだけど」
「髪がまだ黒色だったんだね」
「めちゃくちゃ恥ずかしいんだけどー」
米村さんは、とても顔を赤くしていた。そんなに恥ずかしがるような格好はしていないのに。
「ごめん」
「ちょっと引いた?」
「全然」
「なんでこんなところに置いてたんだろー」
そう言って、写真を裏返してテーブルの上に置いた。
「電話誰からだったの?」
「菜々子からだった。駅前で哲也見かけたって連絡がきた」
「そうだったんだ」
多分、上坂はコンビニから出た後、すっと駅周辺にいたのだろう。男の俺でもゾッとする。
「帰る時は、大丈夫だった?」
「大丈夫だったよー」
「よかった」
今住んでいるところがバレてしまうと、また家まで追われてしまうかもしれないから、少し安心した。でも、この近くに上坂が歩いていたら住んでいる場所がバレるかもしれない。
「しばらく、駅前に行かないようにするね」
「わかった」
「だから、買い物とか鈴木くんに頼むかもしれない」
「そこら辺は、大丈夫だよ」
「本当にありがとう」
そんな話をしていたら、もう九時を過ぎていた。
「もうこんな時間・・・」
「そろそろ、帰ろうかな」
「長々と話しちゃってごめんね」
「ううん、大丈夫。またなんかあったら呼んでね」
「わかった」
「じゃあ、またね」
そう言って俺は、米村さんの部屋を出て自分の部屋に戻った。
部屋に戻り、コンビニでもらった弁当を電子レンジで温める。その間にシャワーを浴びた。明日も学校があるから、弁当を食べてすぐに寝た。
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