第8話

 俺は、可愛いクッションの置いてあるローソファーに座って、米村さんの料理を待っていた。スマホをいじって待っていると、キッチンの方からいい匂いがしてくる。


 俺は、気になってキッチンに行った。


「何作ってるの?」


「パスタ茹でてる」


 料理をしている米村さんは、いつもと少し雰囲気が違った。長くて綺麗なミルクティーピンクの髪を結んでいるからかもしれない。


「まだできないからソファーで待っててー」


 そう言われたから、俺はソファーに戻った。ソファーでスマホを見ていると、バイト先の店長から電話がかかってきた。


「もしもし、鈴木くん?」


「はい、そうですけど」


「急な頼みで申し訳ないんだけど、明日の夕方シフト入ってくれない?」


「明日かー・・・」


 特に予定はないが、火曜日は苦手な先輩、飯野拓郎がいるからあまり入りたくない。


「飯野くんが風邪ひいちゃってその代わりに入って欲しくて」


 飯野さんが休みなら、入ってもいいかもと思った。


「じゃあ、入ります」


「夕方の五時からお願い」


「了解です」


 そう言って、俺は電話を切る。急遽、バイトに入ることになった。まあ、火曜日の夕方だから鬼忙しいということはないだろう。


「お待たせー」


 米村さんは、料理をガラステーブルの上に乗せた。白い食器に綺麗に盛り付けられている。


「美味しそう」


「まあ、パスタは得意料理だからねー」


 俺と米村さんは、ローソファーに横並びに座って、パスタを食べはじめた。


「そういえば、さっき誰と電話してたのー?」


「バイト先の店長としてた」


「そーだったんだー」


 そんな話をしながら、俺は黙々とパスタを食べていた。食べながら、なぜ米村さんは、俺に優しくしてくれるのだろう?

 

 俺はずっと疑問に思っていることを聞いた。


「なんで、クラスの男女仲が悪いのに俺に優しくしてくれるの?」


「うーん、私も菜々子以外の女子に嫌われてるからかな」


 俺は、予想もしない回答に驚きを隠せない。いつも、クラスの中心にいる米村さんが女子から嫌われているなんて信じられない。


「そうなの?」


「嘘ついたってしょうがないじゃん」


「嫌なこと聞いてごめん」


「謝らないでよ」


 そういう米村さんは、いつもより暗い雰囲気だった。秋の夕暮れがより一層哀愁を感じさせる。


「浅野さんの元彼と付き合ったらそれが気に食わなかった浅野さんが女子にありもしないことを言ってるみたい。まあ、その人とはもう別れたんだけどね」


 そんなことで米川さんの悪口を言うなんて人間としてあり得ない。浅野さんは男子にだけあたりが強いと思っていたが気に食わない人は徹底的に嫌っているみたいだ。そんなの都合が良すぎる。


「ごめんね、暗い話しちゃって」


「俺こそごめん。元を返せば俺が振った話題だから」


「浅野さんに悪口言われてることは気にしてないから心配しないでね」


 そういうが、俺は米村さんのことが少し心配だ。


「でも誰にでも優しいわけじゃないからね」


 そう言って、米村さんは俺の手を握ってきた。


「ちょっ、どうしたの?」


「鈴木くんは、私のこと嫌い?」


 そう聞いてきた米村さんの手は、少し震えていたが暖かかった。


「嫌いじゃないよ」


「よかったー」


 そう言って、米村さんは俺から手を離した。そして、米村さんは自分の食器を持ってキッチンに行った。俺は、急いでパスタを食べた。


 食事を終え、俺と米村さんは、学校の課題をやることにした。俺と米村さんが通っている私立東第一高校は、絵に描いたような自称進学校だから課題がとても多い。


 俺と米村さんは、この前やった模試の解き直しをやっている。


「ねえ、この問題わかるー?」


 そう言って、米村さんが指さしていたのは確率の問題だった。


「これは、反復試行だから・・・」


 俺は、確率は得意だから教えることができた。


「理解できた!、鈴木くんって教えるの上手だねー」


「そうかな?」


 初めて、教えるのが上手と言われた。葛西には、わかりにくいと言われているから少し嬉しかった。


「塾講師とか向いてるんじゃない?」


「でもそんなに頭良くないから無理かもしれない」


 俺は、数学は得意だが、他の科目は平均点くらいだから塾講師は難しいだろう。


「そーなの?」


「そうだよ、米村さんは英語が得意だよね」


 米村さんは、校内で行われている英語スピーチコンテストに出たりしているほど英語がペラペラだ。


「小学生の時、海外にいたからね」


「そうだったの!?」


「そーだよー。中学の時、日本に帰ってきたから」


「そうなんだ」


「英語でわからないことあったら聞いてね」


「あ、ありがとう」


 俺と米村さんは、一時間ほど模試の課題をやった。


「終わったー」


「米村さんのおかげで英作文の書き方が理解できたよ」


「それならよかったー」


 時計を見ると、八時を過ぎていた。そろそろ帰らないと、米村さんに迷惑をかけてしまうだろう。


「そろそろ戻ろうかな」


「もう帰っちゃうの?」


「明日もあるから」


「じゃあ、お弁当楽しみにしててね」


「うん」


「じゃあねー」


「また明日」


 そう言って、俺は米村さんの部屋を出て、自分の部屋に戻った。









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