第7話

 俺は、自転車置き場から自転車を取りに行った。自転車を押しながら校門を出ると、米村さんが立っていた。俺が通り過ぎようとすると、


「鈴木くん、遅いよー」

と声をかけてきた。


「俺を待ってたの?」


「そーだよー」


 なんで、わざわざ待っててくれたのだろう?アパートに帰ってから会うこともできるのに。


「一緒に帰ろ!」


「い、いいよ」


 突然のことに驚いたが、俺は米村さんと一緒に帰ることにした。


「今日のお弁当どうだったー?」


「すごくおいしかったよ」


「よかったー。口に合わなかったらどうしよーとか色々考えちゃった」


 米村さんは、ホッとした顔を見せた。


「鈴木くんって、いつも購買でお弁当買ってるよね?」


「そうだけど」


 米川さんにそんなところまで見られてたなんて思いもしなかった。


「明日も鈴木くんにお弁当作ってもいい?」


「いいの?」


「いいよー、お隣さんだから」


 米村さんは、少し気を使ってるように見えた。わざわざ、こんな俺にお弁当を作ってもいいことはないのに。


「ねえ、途中スーパーに寄ってもいい?」


「いいよ」


「やったー、今日はひとり一点限りの卵が鈴木くんもいるから二パック買えるよー」


 米村さんがスーパーのチラシを見ているところが想像できない。偏見だけれど、いつもファッション雑誌を読んでいるイメージがある。


「そうなんだ、でも卵ってそんなに使う?」


「使うよー、お弁当に卵焼きは必須でしょ?」


「確かに」


 学校を出て五分くらいのところにあるスーパーに米村さんと一緒に買い物をすることになった。普段、スーパーに行かない俺は少し新鮮だ。


「鈴木くんは、スーパーとか行くの?」


「あんまり行かないかな」


「普段どうしてるの?」


「コンビニが多いかな、バイト先もコンビニだし」


「そーなんだー」


 そんな話をしていたら、スーパーに着いた。


 俺と米村さんは、スーパーの中に入った。俺は、カートを押しながら、米村さんの後をついていく。


「あったー」


 そう言って指さすのは、特売の卵だ。卵のパックは、残り五パックしか残っていなかった


「少し遅れてたら、買えなかったね」


「ラッキーだね」


 米村さんは、白くて小さな手で卵のパックを一つずつ慎重にかごに入れる。その後も、俺は米村さんの後ろをカートで追いかけた。すると


「明日のお弁当、何が食べたい?」

と聞いてきた。


「米村さんが作ったものだったらなんでもいいよ」


「それ一番困るやつー」


 米村さんは、少し呆れ気味に言った。俺は、ただ本当のことを言ったつもりだった。俺は、必死に食べたいものを考えて


「じゃあ、肉が食べたい」

と大雑把なオーダーをした。


「オッケー」


 俺と米村さんは、生肉コーナーに行き豚肉をかごに入れた。


「何か買いたいものとかある?」


「特にないかな」


「じゃあ、レジに行こ」


 俺と米村さんは、一番並んでないレジに行った。


「あら、麻里奈ちゃん。今日も来てくれたの?」


「あー、田中さん。そう、卵の特売やってたから」


 米村さんは、パートの田中さんと会話に花を咲かせていた。


「そこにいるのは、彼氏さん?」


「いえ、僕は・・・」


「そんな下世話なこと言わないでよー」


「ごめんごめん」


 どう見たって、俺が米村さんの彼女なわけないのに。そんなことを思っていると会計が終わっていた。米村さんに全ての代金を払ってもらっていた。俺は、袋詰めをしながら


「後でお金払うね」

と言った。


「お金は大丈夫だよー」


「いや、そう言うわけには・・・」


「とにかく大丈夫だから」


 米村さんにバッサリと切られてしまった。


 スーパーを出ようとした時、


「なんでないのよ?」

と少しキレ気味に店員に言っているおばさんがいた。多分、卵が買えなかったのだろう。


 俺と米村さんは、スーパーを出た。荷物を俺の自転車のかごに乗せてアパートに向かい始めた。


「そういえば、米村さんって朝どうやって学校まで行ってるの?」


「私は、スクールバスで行ってるよー」


「そうだったんだ」


「本当は自転車で通うつもりだったんだけどアパートの駐輪場が空いてなくてやめたんだよねー」


 言われてみれば、アパートの駐輪場は自転車でいっぱいだ。止まっている自転車の半分くらい所有者が不明という噂を聞いたことがある。


「あと、学校に申請出さないといけないからバスのままにしてる」


「なるほど」


 そんな話をしていたら、俺と米村さんは、アパートに着いた。俺は、自転車置き場に自転車をおいた。自転車のかごに積んでいたスーパーの荷物を持ち、階段を上がった。米村さんに荷物を渡そうとした時、


「ねえ、夕飯一緒に食べない?」

と言われた。


「そんなの申し訳ないよ」


「そんなこと言わないできてよー」


 そう言って、米村さんは俺の腕を引っ張って家に入れた。俺は、初めて女子の部屋に入った。俺の部屋と間取りは同じで1LDKだが整理整頓がされていて、とても広く感じる。


 そんなことを思っていると、


「今日、泊まってく?」

と聞いてきた。


 これって本気で言ってるのか?


「あー、顔が赤くなってるー」


 米村さんは、そう言ってからかってくる。


「そんなにイジらないでよ」


「ごめんって」


 そう言って、米村さんはキッチンの方に行った。








 






















 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る