第二章
第6話
時刻は八時、俺はスマホの目覚ましで目覚めた。かなり、まずい時間に起きた。この家から学校まで自転車で十五分くらいかかる。そして支度には十分くらいかかるからもしかしたら遅刻するかもしれない。
俺は、慌てて制服に着替え始めた。制服のネクタイを結んでいる時、インターホンが家中に響き渡った。玄関に行き、ドアを開けると、米村さんが立っている。
「どうしたの?」
「これ良かったら」
そう言って、渡してきたのはお弁当だった。俺は、突然のことに驚いた。
「いいの?」
「うん、鈴木くんのために作ったから」
米村さんは、少し顔を赤くしながらそう言った。
「ありがとう」
「じゃあ、また学校で会おうね」
そう言って、米村さんは学校に行った。俺は、ネクタイを中途半端に結んだまま、リュックの中に米村さんからもらったお弁当を慎重に詰める。意外と米村さんって家庭的な人なんだなーと思った。
自転車に乗って学校に向かった。時計を見ると、八時二十五分と指している。ちなみに八時三十五分までに教室にいないと遅刻扱いになってしまう。全て青信号で渡るとこができないと、この時間に間に合うことはないだろう。
俺は、予鈴と同時に教室に入った。
「今日、遅かったじゃん」
そう声をかけてきたのは、葛西だった。
「ちょっと寝坊して」
そういうと、葛西は耳元で
「隣の部屋の人は、いつも通りの時間に来てたぞ」
「うるせー」
そんな話をしていたら、先生が教室に入ってきた。
「鈴木と葛西、ホームルーム前は静かに待ってるってルールだろ」
先生に注意をされてしまう最悪な週の始まり方をした。俺と葛西は、男子からは笑いを取ったが女子からは、冷たい視線を浴びた。しかし、米村さんだけは少し微笑んでいる。
・・・
昼休み、俺はいつも葛西と一緒に屋上に行き昼食をとっている。
「今日、弁当じゃん、珍しいね」
「米村さんが朝作ってくれた」
「マジで!?」
「声がデカいって」
窓の空いているクラスに聞こえるくらいの大きさで葛西が驚いたから俺は焦った。幸いにも屋上には、俺と葛西以外いないから誰が大声を出したか特定はされなさそうだ。
「早く中身見せろよ」
「そんな焦るなって」
俺は、米村さんからもらったお弁当を弁同箱から出して蓋を開けた。すると、中にはオムライスが入っている。薄い卵の上にケチャップでハートが描いてあった。
葛西は、弁当の中を見て
「お前、ふざけんなよ」
と言って、俺の肩を掴んで前後に揺らす。
「ちょっ、弁当が傾くだろ」
「まあ、今回はゆるそう」
よくわからないが許しが降りた。
俺は、オムライスを一口食べた。とても美味しい。高校に入って、初めて弁当を持ってきて食べているからか、とても新鮮に感じる。しかも、学校一可愛いギャルが作った弁当を。
「いーなー、俺も女子から弁当もらいたいなー」
葛西は、焼きそばパンを口に咥えながら言った。
「頑張れ」
「思ってないだろ」
「葛西なら弁当の一つや二つはもらえるよ。下品なこと言わなければ」
葛西は、身長が百七十五センチあり、目鼻立ちは整っている。彼女を作ろうとすれば作ることはできるだろう。
「女子の前じゃ下品なこと言わなーよ。まあ、クラスの女子からはもらえないだろうな」
「なんで?」
「だって、クラスの男子全員、女子に嫌われてるじゃん」
一年五組は、本当に男女仲が悪い。最初の頃は、そんなに仲が悪いわけではなかったが、夏休みが明けてから一気に男女仲が悪くなり、文化祭の時にはクラスの雰囲気は最悪だった。
「なんで女子に嫌われてるのかな?」
「わかんねーけど、女子の被害妄想じゃね。女子って思い込みが激しいって聞くし」
葛西の偏見は、相変わらずひどい。でも、一年五組の女子ならあり得そうだ。なぜなら、文化祭の時に言った言わないで学級委員長の浅野莉緒と副委員長の谷原裕翔が大喧嘩をして結局、浅野さんの思い込みだったということがあったからだ。
「でも、なんで鈴木に米村さんは優しいんだろう?」
「家に泊めたからじゃない?」
「普通、嫌いな奴の家に上がるか?」
そう言われて、ハッとした。危機迫った状況というのもあったかもしれないが、嫌いだったら一緒のベットで寝ないだろう。
「そういえば、なんで米村さんは一人暮らししてるんだ?」
「聞いたことないな」
「なんで聞かないんだよ!」
葛西は、少しヒステリックになっている。男子のヒステリックは少しきつい。
「でも、今月から住み始めたみたいだよ」
「そうだったんだ。それにしても変な時期に引っ越してきたな」
確かに十一月に引っ越しってあまり聞かない。何か家庭の事情などがあったのだろうか。
「まあ、色々とあったんじゃない?」
そんなことを話しながら、スマホを取り出して時間を見ると、授業開始一分前だった。
「やばい、あと一分で授業だ」
「次って体育だったよな。絶対に間に合わねー」
体育の先生は、この学校で一番怖いと言われている。まあ、怖いのは男子で女子にデレデレのどうしようもない先生だ。
「とりあえず急ごう」
間に合うように善処はしたが、制服から体操着に着替えている時には、チャイムが鳴り響いていた。
結局、俺と葛西は授業に遅れてしまい放課後、先生に呼び出されてとても叱られた。
こんなに怒られたのは、高校に入ってから初めてだ。先生の怒号で体育教官室が大きく揺れた気がする。
「とりあえず、帰るか」
「俺、今日部活あるから」
そう言って、葛西はそそくさと部室に向かって行った。
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